ハマの海づくり 3

アマモと環境

 「海をつくる会」が取り組む「海づくり」活動の中で、今最も力を入れているのが、アマモの再生である。アマモは花を咲かせて種子で殖える高等植物で、ワカメやコンブなどの海藻類とは分類上異なり、海草(うみくさ)と称して区別される。大量の日光を必要とし、砂泥地に浅く根を張るため、透明度が高く、穏やかで浅いという三つの条件がそろわないと育たない気難し屋だ。
 古老漁師の話では、かつて本牧から根岸湾、そして金沢八景周辺の背が立つかどうかという水深帯には、何キロにもわたってアマモが群生するアマモ場が続いていたそうだ。
 潮が引くと密生した葉が水面にたなびき、その中にこぎ入るといかりがなくても舟が止まり、魚が跳ねる水音を聞きながら昼寝ができた。葉の茂みを探ると、ワタリガニやイカを手づかみにできた。夜には周囲でクルマエビがすくえ、カレイやコチが突け、面白いようにアナゴが釣れたという。
 だが、アマモ場は根岸湾、本牧、金沢地先と進む埋め立てに次々と飲み込まれていった。唯一埋め立てを免れた野島海岸でもアマモの減少が続き、私が潜り始めた1983年に三十ヵ所以上あった一抱えより大きな茂みが、96年前後にはついに十ヶ所を切ってしまった。ところが、世の中が不況のどん底に落ちた90年代末以降、アマモは急速に息を吹き返してきた。特にこの三年間は藻場面積が倍増し、潜り始めの頃を上回るほどになった。
 この間に海の大きな環境改変はなく、アマモの復活を説明できる水質などのデータは今のところ見当たらない。おそらく経済活動と国土開発が活発な時代には、目に見えない人的プレッシャーがアマモの生育を阻んでいたのだろう。それが不景気になって、何らかの阻害要因が除去された、と考えるのが自然だろう。
 アマモ場は水・底質の変化に敏感に反応して消長するので、欧米では環境の総合的な指標として監視が行われている。年数回の水質調査などより、よほど確かに海の状態を知らせてくれるのだ。
 アマモが自ら増える力を取り戻した今こそ、ハマのアマモ場再生のチャンスととらえ、われわれはその実施に踏み切ったわけである。

 

海をつくる会  工藤 孝浩