ハマの海づくり 9

熱帯魚

 横浜のイメージといえば、何といっても海と港。延長150キロもの海岸線をもち、海への徒歩圏内には数十万人もの市民が生活している。しかし、日常生活の中で海を意識している者はどれほどいるだろうか?
 海辺の多くは港湾や企業に占拠されて、市民のアクセスが阻まれている。海辺に出られず、海に近づくことすら難しい状況では、海の存在に気づく事すらないのが普通だろう。
  「海づくり」は、多くの市民が海に関心を向ける事から始まると考えている。そのきっかけづくりとして、山下公園海底清掃や金沢水の日で、その場で我々が採集した海の生物を水槽に入れて展示しているのである。
  水槽展示のターゲットは、海への意識が高いイベント参加者ではない。山下公園に集まる国内外の観光客や、バーベキューをしに野島公園に来る一般の人々である。水槽をのぞき込む普通の人々が、一様に「本当にこんな魚がいたの?信じられない!」と反応するのが、熱帯魚を集めた水槽である。
  秋になると、本市南部の沿岸には、サンゴ礁域から卵や遊泳力が乏しい仔稚魚の時期に流されて来た熱帯魚が一時的に定着する。生まれ故郷を遠く離れ、背が立つほどの防波堤周りの捨石や岸壁の隙間などに住み着き、口に合う餌を探し、ちゃんと成長する。水温が下がる冬までの短い命だが、れっきとした横浜の魚の一員だ。
  熱帯魚の代表格であるチョウチョウウオ類の例では、神奈川県沿岸で私自身が確認したものは25種で、日本産51種の半数に達する。うち、15種は市内で確認されたものだ。特にトゲチョウチョウウオとアケボノチョウチョウウオは毎年必ず出現し、セグロチョウチョウウオは相模湾より市内で多く見つかっている。
  昨年の山下公園では初めてニセフウライチョウチョウウオが発見・採集され、今年の金沢水の日では、市内で初めてムレハタタテダイが採集された。ハマの海には、何年潜り続けても新たな発見がある。これが、私を20年間惹きつけ、潜り続けさせる原動力なのだ。
  この驚きと感動を人々に伝え、海づくりのきっかけを与えてくれる象徴的な生物が熱帯魚なのである。

海をつくる会 工藤孝浩


ハマの熱帯魚の代表、トゲチョウチョウウオ(金沢区野島海岸にて 筆者撮影)