ハマの海づくり 13

赤潮襲来

  

 ハマの海は、糖尿病を患っているかのようだ。海水中に栄養分が満ち溢れすぎ、それが原因で様々な障害を引き起こしている。
 その端的な症状が、赤潮の発生である。赤潮は、富栄養化によって大発生したプランクトンにより海水が着色する現象で、種によって様々な色になる。
 たとえば、トマトジュースのような赤色はヤコウチュウで、小規模でも人目を引く。より大規模でも発生頻度が多くても、渦鞭毛藻や珪藻のコーヒーや味噌汁のような褐色系の目立たない赤潮は、人目を引かず話題にもならない。海が濁っているのは、たいてい赤潮のせいである。そして、その発生はほぼ恒常化しており、もはや特別なイベントではない。
 ところが今年は、極めて特異な赤潮が二度もハマの海に襲来して騒ぎになった。一度目は五月下旬で、京浜運河から横須賀までの広範囲の海が見慣れぬ赤黒い血の様な色に染まった。色だけではなく、臭いも物凄かった。得も言われぬ生臭さが、海から数キロ離れた内陸部にまで立ち込めた。
 原因種はアカシオウズムシという動物プランクトンで、大量の粘液を分泌する。近年目につくようになった種だが、赤潮を形成するほどの大発生はこれまで観測されていなかった。
 東京湾奥部に広く発生したものが、連日の北東風によって横浜沿岸に濃密に集積され、死骸や粘液が腐敗して酸素を消費し、表層が貧酸素化した。多数の魚が浮き、アサリなど干潟の貝類がほぼ全滅した。
 二度目は一ヶ月前、横浜港から三浦海岸までの海面に、廃油ボール状のべとべとした物体が吹き寄せられた。これはフィブロカプサという赤潮プランクトンの塊で、漁具や船体を汚し、エンジン冷却水の吸入口を詰まらせ、ノリ・ワカメ養殖にも被害を生じさせた。
 赤潮を防止するには、海に入る窒素やリンなどの栄養物質を削減し、下水道体系を見直して分流化・小規模分散化や高度処理などを進める必要がある。これらは、市民や個別自治体の手に負えるものではない。
 そこで脚光を当てたいのが、東京湾を取り巻く首都圏連合の構想だ。この構想の実効が最も期待できるのが海の水質改善であり、その成り行きに注目したい。

海をつくる会 工藤孝浩