ハマの海づくり 15

海苔と海づくり

 寒風が吹きわたる海面に林立する竹竿は、海苔を養殖する「のりひび」である。現在、横浜市では金沢区の野島海岸と海の公園の一角で見られ、東京都から三浦市にいたる東京湾の西側を見渡しても、ここだけにしかない冬の風物詩である。

 水が冷え込み、透明度が上がると、海苔がどんどん育ってくる。海苔づくりは厳寒期が勝負の辛い商売だ。物価の優等生である海苔は労多くして儲けが薄く、従事する漁家は減り続けて現在は全市で10軒もない。

今や貴重品になってしまった横浜産の海苔だが、是非一度味わってみていただきたい。香り高い地元の海の恵みを口にすれば、ハマの海の見方が変わるはずだ。ちなみに、「一番海苔」と呼ばれる早い時期に収穫されたものほど品質が良い。平潟湾沿いなどにある漁師の加工小屋を訪ねれば、直接買うことができる。

皆さんに地元産の海苔を勧めるのは、それが「海づくり」につながるからだ。海苔は生長に伴って大量の栄養塩を吸収するため、これを食べれば海の浄化に結びつく。海をつくる会は水質浄化のために横浜港でワカメを育てているが、都会の海で同じ事をしている漁師を皆で応援したい。

横浜の漁業が全盛だった昭和30年代は、まだ正常な生態系が維持されていた。海苔は儲かる商売で、多くの漁師が冬場に海苔づくりに励んでいた。生活廃水を垂れ流し、し尿の海洋投棄すらあったのに、海苔漁場ではしばしば栄養塩が不足し、下肥えが撒かれた。広大な海苔漁場は、それほど優れた水質浄化装置だったのだ。

振り返って今はどうだ。あり余る栄養塩のせいで生態系は歪み、一年中漁船に追い回されて魚介類の資源は枯渇気味。海苔づくりはこんな海の救世主かも知れない。もし、昭和30年代規模の海苔づくりが復興すれば、半年間海が休まり魚が増えるだろう。大量の栄養塩が除去され、生態系が立ち直る可能性すらある。

だが、埋立てで海は狭まり、海面は港湾として高度に利用されているのが現実。海苔漁場を少し広げることすら困難だろう。だが、あえて理想の海への夢を語りたい。海づくりという途方もない事は、夢語りから始まるのではなかろうか。

海をつくる会 工藤孝浩


 
 

昔日の東京湾の風物詩として語られる「のりひび」が、実はまだ市内でみられる。

(金沢区野島海岸にて 筆者撮影)