2002年1月19日(土)野島定点観察報告


「海苔は焼こうね」

                        

参加者:木村(尚)さん、諏訪部さん、木村(喜)さん、安田さん(陸上班)、反田

 今冬、最大級の寒気が南下、とても冷え込んだ朝でした。訳あって、今回、私は何と自転車で参加。持っていく荷物を少しでも減らすため、ドライのインナースーツを着込んで出発。かなりカッコ悪かったのですが、こんな寒い朝に歩いているのは、犬を散歩させている老人ぐらいなので、良しとしました。ところが、侍従川沿いに走っていると、歩道には若い人が沢山並んでいます。何と、この日は大学入試センター試験の初日で、会場となっている関東学院大学に来ている受験生達でした。皆、最後の追い込みに必死で参考書を見ているため、こちらの変てこな姿をみる余裕がなく「セーフ!」という感じで野島まで15分のサイクリングを楽しみました。集合場所である研修センターの駐車場着くと、まだ、誰も来ていません。早速、研修センターの周辺を探検しました。この日は北西の季節風が強く、ここでも歩いているのは犬の散歩やリハビリで杖をついている老人ばかり。しばらくすると、諏訪部さんが器材を台車に載せて現れました。諏訪部さん曰く、「近所の散歩の人みたいですね」。まさしくその通りの格好でした。

 駐車場に戻ると安田さんが250ccのバイクで来ておりました。安田さんは行きがけに河内さん宅に寄り、この日のアマモ調査野帳を持ってきて下さいました。その後、全員揃い、皆さん黙々と器材をセッティング。寡黙な海の男の集まりという感じです。木村喜さんはBCDでなくハーネスだけです。ハーネスだけで潜るダイバーを見るのは10年ぶり位でしょうか。海会は凄い人の集まりです。海辺に行くと、八景島方向から風が強く吹き、波がうねりながら押し寄せてきます。水深が浅い分、波が立ちやすくなっているようです。野島のような内湾でも、時として荒々しい姿を見せるものなんですね。エントリーは10時過ぎ、干潮の2時までには時間があり、水深があったのですが、波が向かってきていましたので水面移動はなるべく控え、歩いて棒岩近くまで行きました。棒岩の手前で途中、一旦は浅くなるので、それを超えてから潜行。

 海に入ると、防寒していない手と顔がジーンと痛い感じで、海の中も「何か暗いなぁ」というマイナスのイメージでした。うねりによる底揺れもあります。冷たさで思考力が低下するなか、どうして暗いのか…ばかりを考えていました。@この日は晴れているといっても薄いレースのカーテンがかかったような雲があり太陽光が若干弱まっている、A波で太陽からの光も乱反射して光が海中に届かない、B底揺れで砂(泥?)も巻き上がって透視度が落ちている、などと原因を考えながらアマモの観察地点まで行って、漸く気が付きました。砂地が茶色のコケのような藻で一面覆われていたのです。12月の観察では海の中が明るく感じられたのですが、これは白っぽい砂が剥き出しになっていたことが主因だったようなのです。しかし、今回はその時から僅か1ヵ月で急変してしまったのでした。ただ、海藻を餌にしているウミウシには好都合のようで、今回はウミウシをよく見かけました。また、体色を砂に似せてカモフラージュしているネズッポの仲間は、私に驚いて逃げたあと海藻の上に着地すると、とても目立つためか、再び慌てまくって逃げていくのが印象的でした。「海藻の上でカモフラージュが見破られた」と自己認識しているのでしょうか、とても興味深いです。

 ところで、肝心のアマモは丈が12月の時と同じ長さのようです。うねりで葉が揺れながらも、しっかり根付いているようです。ところどころ、砂地から小さい芽のようなものが出ています。もしかして、種から出た芽かもしれないと思い撮影しました。ところが、後で映像を見ると、大きさを比較するものが周りになく、ただ普通のアマモが写っていただけという感じです。しかも、うねりで被写体ブレと手ブレの両方により、見るに耐えない写真になってしまいました。次回は定規などを持ち込んで、大きさを比較して撮影しようと思います。陸に上がってから、木村尚さんに話すと、「地下茎から伸びた芽ではないか」とのこと。そういえば、近くに大きな株があったような、ないような…。次回は周囲の株から孤立して生えている小さいアマモを捜してみようと思います。それこそ、正真正銘のアマモの赤ちゃんでしょう。

 そして別の株のところに行くと、思わず息を呑んでしまいました。何とアマモの茂みの中にスズキが休んでいたのです。体長が水中で1m近くに見えたので、フッコというよりはスズキといえそうです。これまでセイゴ級のものは撮影していたのですが、こんなに大きいのを、しかも目の前で見るのは初めてです。しかし、こちらがスズキに気が付くのが遅く、スズキまでの距離は2mもありません。スズキは全く動く気配がありませんが、こちらも凍りついたまま、しばらくお互いにらみ合う状態でした。こんなシーンは滅多にないと思いカメラを向けると、当のスズキ君はこちらをチラッと見て目が合った瞬間に一目散に逃げてしまいました。殺気がオーラのように出てしまったようです。魚を呼び込む才能のある諏訪部さんの域に達するのは、まだまだ無理のようです。こんな素晴らしいシーンに次はいつ出会えるのでしょうか。残念です。でも、小魚の揺りかごであるアマモがスズキのような大きな肉食魚のベットにもなっていることが判り、何だかちょっと嬉しくなりました。

 別のアマモ場では、ヒトデが2匹、餌を奪い合っています。近くによって見ると、カニを食べているところでした。カニの甲羅には白く縁取られたエンジ色の丸があり、ジャノメガザミに違いありません。ヒトデは死んだカニを食べているのでしょうが、まるで生きていたカニを襲って食べたかのように見えてしまいます。うねりでゆらゆら動くなかを何とか撮影、強いうねりが来てひっくり返ったので、別の角度からも撮影しました。

 アマモ場を抜けて人工海草のマリオン(違う名前でしたっけ?)のところに行くと、海草に種々の海藻が生えて、いかにも茂っているという感じでした。マリオンに付いている魚を探したのですが、目立ったものは見つかりませんでした。その先の砂地には、ニクハゼがホバリングしていました。先月よりひと回り、あるいはふた回りも大きくなっています。背鰭に黒と白の点がある個体と、ない個体がいて、雌雄のようです。前回まではこのような雌雄の差は見られなかったので、繁殖期が近いようです。木村喜さんは今回、雌が雄を誘う求愛シーンを観察したとのことで、もう少し早くニクハゼ探索モードに切替えておけば良かったと少し後悔。

 棒岩まで戻り、前回あったアイナメの卵塊を捜したのですが見つからず、ハッチアウトしてしまったのでしょうか。そこから水路側の砂地に行くと、何とここにはニクハゼがウヨウヨ。「やったぁ」と思わず声に出してしまったのですが、撮影しようとするとデジカメが電池切れ寸前で節約モードに入ってしまい、うまく作動ません。水も冷たく手が痺れた状態で、シャッターやボタン操作もうまくできず3カット撮影しただけで撮影を断念。手元の時計をみると水温は8℃を表示しています。その温度を見た途端、急に全身が寒く感じて、陸上班として独りで待つ安田さんのもとへ戻ることにしました。次回はニクハゼ優先で観察しようと思っているところです。

 全員上がったところで、鋼矢板側に移動。途中、海岸では10人近い人がカギのついた棒を使って何かを引っ掛けて採っています。何と海苔ヒビからちぎれて流れてきた海苔をカギに引っ掛けてすくっているのでした。安田さんが「海苔ヒビから25mとか一定の距離を置いたところでは海苔を採っていいことになっているんですよ」と教えてくれました。採っている人のバケツを覗くと、もうほぼ一杯になっています。こんなに採れるなんて、驚きです。それにしても金沢区民はたくましいなぁ、という感じです(私も金沢区民ですが…)。海に入ってみると、あちこちに海苔が漂っています。早速、海苔をすくって口に含んでみました。海水による塩の味の後に旨みを期待したのですが、歯ごたえがあるだけで味らしい味がしませんで、ちょっとガッカリでした。さすがに海会の方はよくご存知で、あぶると香りが出るとのこと。海苔は生で食べるものではないようです。

 前回、鋼矢板に付けた10m毎の距離マークが消えていたので、今回は荷造り用の紐で距離の目印を付けることになりました。しかし、うねりが次々と押し寄せ、水も冷たく大変な作業でした。特に、紐を結ぶ作業をした木村喜さんは苦労されたようですが、そんなことは一言も言わずしっかり仕事をこなしておりました。私は手がかじかんで使い物にならなかったので、結べなかったと思います。木村喜さん、ご苦労さまでした。この日もFMブルー湘南の電話による生中継があり、今回は木村尚さんが担当、携帯で海の中の様子などを話したようですが、こちらは聞く機会がありません。今度、自宅で予約録音して聞こうと思います。

 その木村尚さんが中継を終えて途中から参加、すると海面にアマモが根っこごと1本、抜けて浮いていました。木村尚さんが根(地下茎)を口に含んで「味がする」というので、私も早速、かじってみると、確かに味がします。砂糖のような甘さではないのですが、ほんのりと甘味らしいものも感じます。この日初めてアマモの名前の由来を舌で知ることができました。両木村さんの話だと、地方によっては「アジモ」と呼ぶところもあるそうで、確かにその通りという気がします。もしかして、この甘味は糖類由来ではなくアミノ酸由来なのかもしれません。肝心のアマモの生育調査はうねりが強すぎて、海中が濁って全く見えず、観察できなかったため中止としました。大潮の干潮時で水深が浅ければ多少濁っていてもアマモが見えたのでしょうが、今回はフィンを履いてつま先立ちして、やっと顔がでるほどの水位。とても無理でした。距離の目印付けのみの作業にとどめ、陸に戻りました。

 昼食は例によって、中華屋さんの出前。木村喜さんの務め先がこの中華屋さんの近くだったとかで、メニューにとても詳しく、木村喜さんのお勧めの何とかチャーハン(名前を失念しましたが、木村喜さんが後でメールで「ルースーチャーハン」と教えてくれました)を3人が注文、私は中華カレーにしました(この前食べた時に体がとても温まったので)。諏訪部さんがそのチャーハンを少し分けて下さり、とても美味しかったので次は注文しようと思います。昼食後、2時半過ぎに解散。私はインナースーツを着たまま自転車で家に戻りました。朝は人がいなかったのですが、昼間は道行く人が多く、ちょっと恥ずかしい思いをして帰りました。しかも、家に着いて鍵を忘れたことにやっと気付き、家人が帰ってくるまで玄関先で30分も待たされてしまいました。

 潜行開始:10時20分、浮上:10時53分、潜水時間33分間、水深:最大2.0m、平均1.6m、水温:最低7.3℃、平均7.8℃
 今回観察した魚種:スズキ、クロサギ、ネズッポの仲間、ヒメハゼ、スジハゼ、ニクハゼ、クサフグ

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