2002年2月22日(金)早川丸ワカメ採り体験報告


「ルーズソックス」

                        

参加者:木村(尚)さん、工藤さん、辻さん、安田さん、安齋さん、反田

 今回は野島でのワカメ採りです。ワカメの種付けから採集までの経験を子ども達に体験してもらい海の大切さを認識してもらうというような企画の「夢ワカメ・ワークショップ」(主催:海辺つくり研究会)を2月23日(土)に開催するため、子ども達の試食+お土産用のワカメを前日に野島沖で調達、用意することになりました。土曜日の前日というと金曜日、平日です。私は午前を半休にして、どうにか参加。集合は9時に野島運河脇の早川丸。少し早めに着くと、木村さん、工藤さん、安齋さんが3月3日に開かれる「金沢湊祭り」で主催側の横浜市大の学生さんと打ち合わせしておりました。本当に忙しい人達です。湊祭りでは、海会として平潟湾の干潟で子ども達と生物観察したり、姫の島公園で地元の海の生き物を展示することを手伝うことになっています。こうしたいわゆる「草の根」の運動が広がりをみせて、次世代の人々が少しでも海を好きになって大切にしてくれれば、と思います。

 ところで、肝心のワカメ採りは船外機付の小型船2隻に分乗して行くことになりました。先頭の船には早川丸のご主人と、水中での採集係として工藤さん、船上でのサポートとしてドライスーツを着用した安齋さんが乗り込み、後ろの船には船上サポートとしてセミドライの辻さんとネックシールのないドライの安田さんが乗り込み、木村さんと私が採集係となりました。採ったワカメを入れる大きなタライというかタルが3つ用意されました。ワカメ採り初体験の私は「1人1つ一杯にするんですかーっ、えーぇ」と思わず叫んでしまいました。採集係の3人のうち、私以外はプロダイバー=潜水夫です。ついていけるのか不安を抱えながらの出港でした。でも安田さんがこのタルくらいなら「15分程で一杯になりますよ」と太鼓判を押してくれました。

 船に乗って運河を行くと、矢板を過ぎたところで右旋回90度、いつも潜っている棒岩方向に向かっています。何と観察中のアマモの上を通過して水路に入りました。水路に入ったところで、またまた右旋回90度。今回は野島のはるか沖を潜るイメージを持って来たのですが、あえなく崩れ去りました。結局、バーベキュー場からすぐの水路内で潜ることになりました。他のポイントはすでにワカメがアメフラシに食べ尽くされているとのことで、急きょ、ここに決まったようです。別に船で来なくても陸からエントリーできる、そんな地点です。安田さんが木村さんに「メカブの下から切るんですよね」と聞いています。メカブというとスーパーとかで売っている、あの「メカブ納豆」とかのメカブだろうということは何となく分かりました。そこで、はたと気が付きました(この表現、好きではないのですがピッタリです)。私は水中でワカメが生えているのを見たことがなかったのです。「メカブってどんなんですかぁ」と聞くと、安田さんと木村さんが右と左からステレオ状態で交互に教えてくれます。その説明で、根っこの上にある「モアモア」したものということだけは分かりました。それから、ワカメを採ろうというのにナイフを持っていない自分にも気付きました。幸い辻さんが持ってきていたのでそれを借りて足に付けることにしました。そういえば、ナイフを足に付けるのなんて10年ぶり位かな。

 水深がないのでバックロールは危ないとのことで、エントリーはインストラクターでもある安田さんに教えていただいたサイドロールでやってみました。ちょっと良いことを教わりました。入ってみると、水中は浮遊物が少しあり、意外に暗いというイメージでした。目の前に岩のようなものがありワカメが何本も付いています。先に入った木村さんはすでに採りはじめています。「よしっ、自分も」と思って根元を見るとモアモアがありません。しかも作業で浮遊物が舞い上がり、視界は数10cm先しか見えません。心配になりながらも、とりあえず根のすぐ上から切ると、ナイフの切れ味は抜群でした。辻さんの日頃の手入れが感じられます。近くのワカメはどれにもモアモアがなく、不安がありましたが採ったワカメを持っていた左手がもう持ちきれなくなったので、一度、浮上して船べりで辻さんにワカメを手渡すと、代わりに玉葱袋のような赤い袋をくれました。今度はいちいち浮上しなくても袋に入れるだけで済みます。しかし、勇んで潜るとワカメはほとんど見当たりません。泳ぎまくってやっと見つけたのは僅かに1本、単独で生えていたものでした。しかも根から3分の1より先はアメフラシに食べられたらしく芯だけになっています。こんなワカメが点在しており、やっぱりモアモアはありません。そしてどれも先は芯ばかりで、葉の部分がほとんどありません。急にアメフラシ(正確には、ワカメを食べるのはアマクサアメフラシという種類とのこと)が憎らしいものに見えてくるから不思議です。今まではユーモラスな生き物だと思っていたのに。

 少し行くと漸く10本程度、密生しているところが見付かりました。ここのは太くてしっかりしていて、アメフラシの食害も少ないようです。そしてナイフを根元に近づけた時、「おおっ、これがメカブだ!」やっとモアモアを見ることができたのでした。オジサンど真ん中の私がこの表現を使うのは誤解を招きそうで非常にためらわれるのですが、ちょうど女子高生のルーズソックスの「ルーズ」の部分のような感じです。今まで見てきたのは、高校生になる前の中学生のソックスだったんですね〜ぇ。ナイフを当てると、モアモアの部分から藻エビ系のエビが数匹、飛び出してきました。ルーズソックスはエビの棲家でもあったのです。エビ君達には可愛そうなことをしましたが、ここの高校生ワカメで漸く袋が一杯になりました。意気揚揚と船に戻って辻さんに袋を渡すと、辻さんは船に揚げる前にワカメを絞って袋から海水を抜いています。海水が抜けると、何と何と!ワカメは半分位になってしまいました。あぁ、ガックリ。

 空になった袋を再び受け取り潜行。やはり中学生以下のワカメしか点在していません。探しに探しても周りはヘドロが堆積したような泥底が続くばかり。ただ、その泥底には30cm間隔でテッポウエビの巣穴があり、共生ハゼ天国でした。といってもほとんど全てがスジハゼ。他の魚というと障害物の周りに時折、アカオビシマハゼが見られる程度です。ニクハゼも2尾ほど見ただけです。スジハゼを見ながらも泳ぎまくって何とか袋の半分ほど集めたところで「そろそろ戻った方が良いかも」と採集を断念して浮上すると、船上の人々が怒っています。船べりを叩いたりして、「上がれ」という合図を送っていたのに一向に上がらない私に対して「無視された」と思ったようです。ところが、こちらは5mmの内側スキンのフードを被っていたので、音が全く聞こえなかったのでした。

 その後、採集場所を沖合いのワカメ養殖場に変更しました。ブイの間をロープが渡してあり、そこにワカメが種付けられて育てられています。今年はアメフラシが大量発生して養殖業者は困っているとのことで、早川丸のご主人からワカメ採取のついでにアメフラシ退治をお願いされました。覚えたてのサイドロールでエントリーすると、ここの海底は比較的固くて濁りが少なく、透視度もそこそこあります。海底から上を見ると頭上にロープが渡され、そこにワカメが茂って揺れていて、とても幻想的です。ロープが1本、海底に落ちていてそこについているワカメは太く長く、先程の水路ものとは全くの別物です。天然物と養殖物ではこうも違うのか、と感心してしまいました。天然物が中学生や高校生なら、ここのは中年太りのようです。そしてアメフラシがそこらじゅうにいます。袋はすぐにワカメとアメフラシで一杯になりました。辻さんに渡すと、ワカメとアメフラシの選別で相当苦労していました。

 子ども達が食べるワカメとアメフラシを一緒にするのがためらわれ、「ワカメ採りは潜水夫2人に任せて、自分はアメフラシを獲った方が良いのでは…」という思いが頭をもたげ、アメフラシ専門に狙うことにしました。いざ探すとなるとなかなか見付からなかったのですが、少し行くといました。2匹が交接を始めようとしていて、他の1匹が間に入って相手を奪おうとしています。普段はユーモラスに見えるアメフラシですが、この時ばかりは「渡すもんか」と険しい顔つきをしているようにも見えます。でも3匹とも袋の中に収まってしまいました。別の個体は、何かにとり付かれたようにまっしぐらに走っています。秒速1〜2cmはあります。彼らにしては全力疾走に違いありません。この他にも全力疾走する個体をいくつも見かけました。アメフラシもフェロモンのような物質を出すのでしょうか。餌となるワカメはどこにも沢山あるのに、アメフラシの分布が極端です。

 水中で工藤さんに出会ったら、右手にワカメ一杯の袋、左手にアメフラシ一杯の袋をもって泳いでいます。二刀流です。こちらは一刀流ですが、アメフラシで負けるわけには行きません。でも、心配は要りません。一度見付かり始めると、次から次へと出てきます。すぐにアメフラシで袋が一杯になり浮上、辻さんに渡すと安田さんともどもア然。この時、エキジットすることになりましたが、体が冷え切ってうまく上がれません。最後は安田さんに手カギをフィンに引っ掛けて"水揚げ"してもらいました。マグロになった気分を味わえる瞬間でした。

 船着場に戻って、早川丸のご主人が一部のアメフラシを計量すると、10kgもありました。全部では40〜50kgにもなります。諏訪部さんのメールによると、200gのアマクサアメフラシが食べるワカメの量は1日10〜12gで、今回のアメフラシが全てアマクサアメフラシとすると、アメフラシを50kgとして1日2.5〜3.0kgのワカメを食べてしまう計算」になります。凄いですね。東京湾では富栄養化が問題ですが、ワカメを人間が食べれば海水中の栄養を間引くことができますが、水中にいるアメフラシが食べると栄養塩類は海水中に留まることになり、富栄養化を食い止めることができません。運悪く3人のダイバーに出会ってしまったアメフラシ君達には申し訳ないのですが、ちょっとだけ、東京湾の浄化とワカメ養殖業者の健全経営に貢献していただきました。海会の方々は、このままアメフラシを無駄にする訳にはいかないとして、その日のうちにアメフラシのレシピがメールでやり取りされていました。

 会社に行かなくてはならない私としては、器材も洗わずに速攻で着替えて11時半に帰宅。シャワーで頭と顔だけを洗って12時02分の電車に乗り出勤しました。フードの内側がスキンでしたので頭や顔にゴムの匂いが残ってしまい、非常に恥ずかしい思いをしました。それとワカメの匂いもしています。アメフラシの匂いがしなくて本当に良かったという感じです。その日は眠くて眠くて大変でした。水温が10℃を切るような海を潜った後に仕事をするものではありませんね。慌てて帰ったため、今回、生まれて初めて採ったワカメを食べるチャンスを失ってしまいましたが、翌日、子ども達は大喜びだったとのことで、少しは貢献できたと喜んでおります。

 〔1回目〕潜行開始:潜行開始9時28分、浮上:9時56分、潜水時間28分間、水深:最大4.0m、平均3.2m、水温:最低8.9℃、平均9.0℃
 〔2回目〕潜行開始:10時08分、浮上:10時32分、潜水時間24分、水深:最大4.8m、平均3.9m、水温:最低8.9℃、平均9.0℃、天候:曇時々晴れ、南西の強風
 今回観察した魚種:ボラ、スジハゼ、アカオビシマハゼ、ニクハゼ、アミメハギ

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