2002年3月2日(土)、柴支所藻場造成応援報告


「2ケタに到達」

                        

参加者:工藤さん、伊東会長、諏訪部さん、反田

 今日は横浜市漁協の柴支所で人口海草マリロンを使った藻場造成テストの応援です。当初、工藤さんと木村(尚)さんで対応するとのことでしたが、木村さんの都合が悪くなったことから、海会に応援要請があったものです。底曳船に乗ってボートダイビングとのことでしたので、どうしても底曳船に乗りたかった私は女房をどうにか説得して、応募締切り直前の金曜日の昼前に工藤さんに連絡、参加することができました。でも、他に誰が参加するのかを聞き忘れ、こういうことに首を突っ込む人間は私くらいだろうと思っていました。ところが当日、集合時間である8時半の20分も前に漁協に行ってみたら、すでに伊東さんと諏訪部さんが来ているではありませんか。これぞ「海会」、声を掛ければ集まる人がいるんですねぇ、この会には。

 私には身に覚えがありませんが、やっぱり参加者の中に日頃の行いが良い人がいるのでしょうか、陽射しが心地よくて風もなく、春本番が感じられるような清々しい朝でした。漁港にはマリロンを取り付けた金属製のフレームが2基、用意されていました。ドライのインナースーツに着替えると、漁協に来ていた漁師さんと見分けがつかない格好になってしまいました。でも本物の漁師さんは「海の男」を地で行っており、俄か仕立ての私とはどこか雰囲気が違います。しかも私は器材を底曳船に積み込むときに、甲板の上で梯子につまずき、コケてしまいました。アンクルを左右合わせて2kgも着けていたので足が上がりきらなかったのが原因です。周りの漁師さん達に「こいつは大丈夫か」という不安を与えてしまい「まっ、まずい」と思ったのですが、それ以降は漁師さんが妙に私に親切になったりして。海の男の優しさってヤツですかね、そういったものを感じました。

 4.9トン型(と言っても、これは制度上のトン数で実際は20トン以上ありそう)の底曳船に乗組んだのは、海洋リサーチ(プロダイバー)から3人、海会が工藤さんを入れて4人、漁師さんなどほかに7〜8人、総勢で10数人もいます。甲板にマリロンを積み込むとちょっと窮屈な感じでした。しかし、底曳船は網をスターン(船尾)から揚げて、船尾側の甲板で作業するため他の漁船に較べると甲板が広く、工藤さんは「底曳船は広くていいなぁ」ということを盛んに連発しておりました。作業船としてテンダーボートを3隻引き連れて、定刻どおり9時過ぎに柴漁港を出港。八景島の横を通って進路を北に変え、最初の目的地はいわゆるアウトレットが入っている横浜ベイサイド・マリーナ沖です。ベイサイド・マリーナには女房・子どもと良く買い物に行き(正確には付き合わされて行きます)、マリーナから海を見渡す風景は私のお気に入りですが、まさか底曳船に乗って行くとは夢にも思いませんでした。

 マリーナ沖は、浅場造成のためワカメ・コンブの養殖イカダが浮かべられていました。漁師さん達がマリロンをテンダー1隻に移し設置の準備。ダイバーは底曳船のスターンからジャイアントでエントリー。スターンには網が絡まないように金属のローラーがあり、そこをまたいで入る形です。ところが私はローラーの上で足がツルっと滑って、そのままザブン。格好としてはジャイアント・ストライドっぽく落ちたので、何とか繕えました。「結果よければ全て良し」です。透明度はあまり良くないようで、潜行を始めて下を見ると底が見えません。ところが、途中から急に底が見えてきました。ヘドロだらけと思っていたのですが、底にはムラサキイガイの塊やその貝殻がびっしり。途中から見通しが良くなったのは、どうもイガイが水底近くの海水を常に濾過しているからと思われました。ドライにエアを入れて浮力を調整してソフトランディング。でもちょっとの水流で泥のような沈殿物が舞い上がります。伊東さんは泥に手を入れてみたとのことで「泥の層は薄く、底は以外にしっかりしていた」と語っていました。

 海会の3人は伊東さんがニコノスで、諏訪部さんがビデオで、そして私がデジカメで、それぞれ記録を中心に作業の補佐をすることになっていました。着底すると、すでにマリロンが水深6mのごく緩やかな傾斜のあるところに沈められていて、プロの方々が金属フレームの長辺に各2個、短辺に各1個の逆U字状の杭で海底に固定し始めました。作業の邪魔にならないように横で撮影していたのですが、この作業で沈殿物が舞い上がって視界が急に悪くなってしまいました。しかも流れが無く、濁りがなかなかとれません。仕方なく、マリロンから離れて周りの生物層を観察することにしました。底にはイガイの塊がそこらじゅうにあるのですか、おそらくイガイの貝殻などが核となって、そこへ新たにイガイの子どもが付着、成長して死んでは、それがまた核となって…という形でこれを繰り返して塊になったようです。イガイのほかにはナマコが2〜3種、ヒトデが3種ほどいるだけで魚類は見付けられませんでした。生物層からすると種類が少なく、ここは少し"病んだ海"かもしれません。そして、夏場に底が貧酸素状態となって、このイガイが全部死んだりすると大変なことになりそうです。その先は考えたくないし、そうならないことを願っています。

 プロの方々が手際良くフレームを海底に固定したため、私は撮影と生物観察だけであとは何も手伝うことができませんでした。浮上すると、底曳船は少し離れたところにあり船まで水面移動です。この移動はウエイトを沢山着けている身にとって、少し面倒でした。でも船上へは、乗船時につまずいたあの梯子が降ろされていたため、非常に楽でした。乗船すると、テンダーで漁師さん達が養殖イカダからワカメとコンブを採取しているところでした。テンダーにはドライスーツを着た工藤さんも乗っていました。工藤さんは今回、潜らなかったようです。ワカメとコンブはそのテンダー3隻が一杯になるほど。1隻分だけ母船である底曳船に転載して場所を移動です。移動中、工藤さんと職場の後輩である石井さん、手伝いで諏訪部さんが水揚げしたばかりのコンブとワカメの測定を始めました。コンブは3m以上に伸びたものもありました。僅かひと冬でこんなに伸びるなんて、栄養豊かな海なのですね。

 残るもう一つのマリロンは福浦ヘリポートの沖に設置します。今回は工藤さんも潜りました。設置場所を下見するため工藤さんと海洋リサーチの高橋社長が潜り、設置場所を選定。テンダーからマリロンを降ろし、我々も潜行。海底は「駆け上がり」状態となっており、今回は海洋リサーチ側の撮影を優先するとのことで、海会メンバーは周辺の生物観察に回りました。ここは岩や石が多く底はしっかりしており、岩の上には牡蠣が一杯着いています。獲るつもりは全くないのですが、少しだけ貝を開けていた牡蠣が「何をする気だ」と言わんばかりにキュッと殻を閉じます。殺気を消し去ることができる諏訪部さんも同じ経験をしたそうで、いつも殺気をオーラのように出して被写体に逃げられてしまう私はそれを聞いてちょっとホッとしたりして…。

 イガイだらけのマリーナ沖と違い、ヘリポート沖の底には牡蠣殻が沢山落ちていて、その隙間にエビが複数種いました。そしてやっと魚を見付けました。全長1.5cmほどのイソハゼの仲間です。ところが撮影する前に牡蠣殻の奥に逃げられてしまいました。「撮るぞ」という殺気がオーラのように…。少し移動すると、同じ種類のハゼがいました。サル並みに反省できる私は、今度は慎重に寄って撮影。水深をみると10mを超えています。金沢区の海を潜って初めて2ケタの水深に到達した記念すべき瞬間でした。プロの方々の設置と撮影が終了したようなのでマリロンを撮影するために移動。マリロンは水深9mの棚状のところにあり、この辺は常に流れがあるようなので、アンカーで固定してありました。マリーナ沖とともに、このマリロンが今後どう変化していくのか、将来が楽しみです。マリロンの横の岩陰にはメバルの子どもが群れていました。それを撮影していると工藤さんから浮上の合図。水面では流れに押されながら、またまた水面移動。多少疲れましたが、それでも充実感の方が上回っておりました。

 マリロンの無くなった甲板は少し広く感じられました。漁港に到着して、器材とワカメを"水揚げ"。器材を洗っている時に、工藤さんに「イソハゼの仲間がいましたよ」と言うと、何やら興奮しています。東京湾では湾口の観音崎辺りにはイソハゼが分布しているものの、湾奥ではイソハゼを含めてイソハゼ属の魚を見たことがないとのこと。「間違えたかな」とちょっと不安になりましたが、工藤さんにデジカメの映像を見せると「間違いなくEviota属だ」と学名で呼んでおり(さすが研究者です)、私もホッとしました。イソハゼは南方系の超小型ハゼのグループで、実は新種の宝庫です。水温10℃程度で生きられる種類はあまり知られていないはずで、もしかして新種(未記載種)だったら良いなぁ、などと淡い期待を抱いています。そして周りの人々は、「一般人はメバル→イソハゼのように大きい魚に先に気が付いて、そのあと小さい魚を見付ける」のに、反田は小さいハゼから先に見付けるので一般人とは逆だと言って盛り上がっておりました。

 漁協では昼食(カレー弁当)を用意していただき、至れり尽せり状態でした。そして、帰り際に採ってきたばかりのワカメを大き目のゴミ袋一杯いただきました(1人に袋1つ)。一般の消費者は食品を「g単位」で考えますが、漁師さんは「トン単位」で考えるのでしょうか、ケタが違い過ぎました。茹でれば2ヵ月くらい冷凍が効くとのことで、葉の部分は干しましたが我が家の冷蔵庫は茎とメカブで一杯です。私以外の海会3人衆は、夕方、平潟湾に流れ込む宮川の暗渠(字はこれで良いのか分かりませんが、変換したらこの字が出ました、地下の水路のようなイメージらしい)にウナギを観察に行き、そのあとゴカイのバチ抜け(底から這い出して泳ぎながら産卵すること)を観察すると言って張り切っていました。私は沖縄のダイビング仲間が東京に来る(何とモルジブ帰り)ので観察には参加しませんでした。

 〔1回目〕潜行開始:潜行開始9時58分、浮上:10時22分、潜水時間24分間、水深:最大6.7m、平均5.9m、水温:最低10.2℃、平均10.3℃
 〔2回目〕潜行開始:11時37分、浮上:12時02分、潜水時間25分、水深:最大11.4m、平均9.1m、水温:最低10.0℃、平均10.1℃、天候:晴れ
 今回観察した魚種:メバル、イソハゼ属の1種


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