2002年5月12日(日)多摩川河口干潟見学会報告 


「キャッシュ・オン・ デリバリ」

                        

参加者:木村(尚)さん、坂本事務局長&ご家族ほか、河内さん、反田
      (以上、海会関係者のみ、ほかに20名ほど)

 今回の企画は、海会の木村三兄弟の三男・尚さんが事務局長をしている
「海辺つくり研究会」主催の第2回多摩川干潟見学会です。海会としても
参加することになりました。前回は昨年12月の海会忘年会(一泊二日)と
重なって、木村さんと工藤さんが忘年会には夕方から参加したのですが、
その時に木村さんが撮影したトビハゼのドアップの写真を見せていただて
から、半年間も撮りたいと思っていたので、参加できることになりワクワ
ク状態でした。私は高校生の時だったか、江戸川放水路にハゼ釣りに行っ
た際に、トビハゼを苦労して、どうにか1尾だけ採取、自宅で飼っていた
経験があり、それ以来、珊瑚礁域のミナミトビハゼには会っているのです
が、トビハゼとのご対面は何と25年ぶり位です。

 今回の企画は、これから産卵期を迎えるトビハゼの巣穴に樹脂を流し込
み、巣穴の形状を探るのが目的です。私は参加できなかったのですが、前
日の11日(土)に約30人ほどが参加して、樹脂を流し込んだとのことで
す。集合は京浜急行大師線の終点・小島新田駅です。駅に着いて改札を抜
けると、木村さんが「海辺つくり研究会」と書いたダンボール片を手にし
ており、手作りのイベントという感じがして微笑ましく思えました。東邦
大学の風呂田先生の教え子であるトビハゼ研究者の女性の方(お名前を失
念しました、以下「先生」)がお見えになっていて、トビハゼだけでな
く、樹脂の話や干潟の生物の話を聞くことができ、自分にとって、また、
新しい世界が広がった感じがしました。樹脂の話のとことでは、木村さん
が「水中でも固まりますか」と尋ねていたので、野島かどこかで何やら企
んでいる様子。今後が楽しみです。

 先生の干潟の話を聞きながら、10分ほど歩くと多摩川の土手が見えてき
ました。土手に上ると、広大な葦原の間に干潟が見えます。多摩川の河原
は、もう少し上流ではグランドや遊歩道などに利用され人工的な“臭い”
がプンプンしていますが、ここは河口から僅か2kmの地点で、そうした
人工的な臭いがほとんどありません。東京近郊にもこんな自然が残ってい
たのですね。いよいよ干潟に降りると、子どもさんを5人連れた坂本さん
ご夫婦がすでに泥んこ遊びをしていました。その先の干潟の中央では干潟
の傾斜を測量しており、硬軟入り混じってのイベントという感じです。何
と、今回の参加者の中に、昔、一緒に東京湾を潜ったH氏が子連れで来て
おり、風呂田先生など、この“干潟業界”は案外狭いのかな…という気が
しました。

 ここの干潟は前日の朝までの雨のせいもあってか、ほとんど泥。しかも
キメが細かくて非常に柔かく、河内さんや先生などの女性陣からは「泥
パックのよう」との声があがっていました。足を入れると、ずぶずぶと直
ぐにくるぶし辺りまで入ってしまいます。しかし、ドブ川のような異臭は
ほとんどなく「泥が生きている」とでも言うのでしょうか、そんな感じで
す。でも、さすがに夏の炎天下になると5cmも掘ると貧酸素状態とな
り、硫化水素の臭い(ドブ川の異臭)がするそうです。でも、その貧酸素
状態を和らげるのが、ゴカイなどの環形動物やカニ、エビなど甲殻類の巣
穴で、穴を通して泥の中に酸素を供給することになるそうです。

 巣穴掘りの一通りの説明を受けたあと、木村さんがある研究所から戴い
てきたCOD(化学的酸素消費量)の簡易測定キットを出してきて、CO
Dの調査もすることになりました。私はもちろん専門家ではないので間
違っているかもしれませんが、CODとは簡単に言うと水中に溶けている
有機物の量を測定するもので、有機物を科学的に酸化させるのにどの位の
酸素が必要なのかを指標とするものです。似たようなものにBOD(生物
化学的酸素消費量)というのがあり、こちらは好気性細菌など生物的に有
機物を分解するのにどの位の酸素を使うのかが指標となり、どちらもpp
m(100万分の1=0.0001%)などが単位となっており、この数字が少ない
ほど水は綺麗ということになります。このキットはタバコの半分程度のプ
ラ容器に穴が開いており、その穴から水を吸い込むと容器の中の試薬と反
応してCODの量に伴って水の色が変わり、水の色でCODの量を調べる
というものです。

 早速、穴掘り開始です。前日に流し込んだ樹脂は全部で10ヵ所。牛乳
パックを輪切りにしたものを巣穴の周りにセットして、そのパックの内側
に樹脂を流し込んだようで、この樹脂は3時間ほどである程度、硬化しま
すが、一晩置くのが無難とのこと。巣穴に向かおうとすると、女房から借
りたブーツ(長靴とも言う)が抜けない! 無理をして抜こうとすると、
泥の中に頭から突っ込んでしまいそうです。直ぐに泥がジーンズにはねて
汚れてしまい女房の怒る顔が浮かんできます。実はタオルとか着替えと
か、家を出る前に用意していたのですが、リュックに詰めるのを忘れて、
タオルを1本、優しい河内さんに借りて参加したのです。でも、もがいて
いるうちに何とか歩けるようになりました。泥に入った足首を直ぐに抜こ
うとせずに、左右に振るようにして泥の穴を広げ横方向にひねりながら抜
くと、うまく足が抜けます。

 そして、何とか牛乳パックのところまで辿り着き、巣穴掘りに挑戦で
す。樹脂は比較的弱く、力が加わると折れてしまうため、巣穴掘りはパッ
クの周囲1m付近から慎重に開始して、徐々に内側に掘り進むことになり
ます。掘り始めると、近くにいた坂本さんが「掘る穴の周りにまず土塁を
築くのがコツなんだよ。ほら、周囲の水が流れ込んでこないでしょ」
「う〜む、なるほど!さすがっ!」 コツを見付けるのか素早い人だ
なぁ。土塁を築きながら穴を掘っていくと、もう直ぐ樹脂に当たりそうな
気配です。「よし、ここからは慎重に!」と自分に言い聞かせながら掘ろ
うとすると、反対側から掘っていた人が、すぅ〜っという感じで樹脂を抜
いてしましました。私たちが掘っていた巣穴は10cmもなかったのでし
た。別の穴に行くと、こちらも他の方が相当、掘り進んでいました。脇か
ら手伝うと、私の手が樹脂に到達する前にやっぱり他の方が抜いてしまい
ます。

 先生が掘っている巣穴は異常に深く、悪戦苦闘しています。河内さんは
ここの巣穴掘りに加わって、泥だらけになっています。上のほうは柔か
かった泥も下の方はかなり締って硬いようです。やっと掘った巣穴はらせ
ん状に1mもの深さがある立派なものでした。巣穴の形状は種類によっ
て、ほぼ決まっているとのことで、このらせん状巣穴の持ち主はハサミ
シャコエビでないかとのことです(私はハサミシャコエビを知りませ
ん)。樹脂を流し込むと巣穴の持ち主が樹脂に閉じ込められて、種類が判
るケースがあるそうですが、残念ながら今回は10個の巣穴すべて、持ち主
が閉じ込められたものはありませんでした。でもトビハゼの巣穴らしきも
のもゲットでき、結果は上出来だったようです。

 私は巣穴掘りでは、あまり貢献できなかったので、COD測定に挑戦す
ることにしました。まず、多摩川の本流に行ってみることにしました。ド
ロドロ状態のところは、一歩一歩、歩くのが大変ですが、不思議なことに
途中から泥が締っており、歩きやすくなりました。あとで、それを木村さ
んに話したら、川の流れが柔かい泥を流してしまうので、川の中央方向に
行くほど、底質が硬くなるとのこと。「そうか、不思議でも何でもなかっ
たのか」 川の本流に行くと、水は濁ってはいるものの汚れてはいない感
じで好感が持てました。そこでCODキットに水を吸い上げて、戻る途中
で10m四方ほどの水溜りでも吸い上げて、最後はドロドロ状態のところに
戻って水を吸い上げてみました。結果は、@泥、A水溜り、B本流の順に
COD値が高く、思った通りの結果となりました。このキットは8ppm
までしか測れませんが、Bの本流がちょうど8ppm程度で、@とAは8p
pmを軽く超えていました。

 ようやく時間ができたので、トビハゼ観察です。でも今までこの干潟で
トビハゼを見ていなかったので、坂本さんに「どの辺にいますかね」と尋
ねると、坂本さん、奥さん、娘さんの渚ちゃんの3人がステレオというか
サラウンド状態で教えてくれました。そこに行ってみると、ピョンピョン
とトビハゼがオンパレードです。「何だ、直ぐそばにこんなに沢山いたの
か!」って感じ。一歩、歩くだけで10尾位が反応します。でも1mも距離
を縮められないうちに逃げまくってしまいます。夏場のトビちゃんは元気
印なのでした。トビハゼ以外にも、泥水の中には2〜3cmのハゼがいまし
た。前日のみ参加した工藤さんによると、泥水ハゼは3種類もいるそうで
すが、私には区別がつきませんでした。

 昼過ぎには樹脂に着いた泥を洗って、記念撮影などして解散となりまし
た。その後、海会関係者だけで、土手の上でランチタイムです。私はコン
ビニで買っていったおにぎりを食べたのですが、親切にも坂本奥様がおに
ぎりを分けてくれお腹一杯になりました。奥様が子どもたちにCODの説
明をして欲しいとのこと。親心ですね。すかさず坂本パパが「キャッシュ
・オン・デリバリ(代金引き換え渡し)の略だよ、CODは。ウチの業界
ではね」一同大笑い。でも、説明と聞いて私は「ええと、あの、あの」と
言ったまま凍りついてしまいましたが、河内さんが助け舟を出してくれ
て、本当に分りやすく説明してくれました。それと、木村さんの話では、
多摩川河口は超大粒のヤマトシジミの産地で、地元の人がよく採りに来る
とか。今度はシジミ狙いで来ようかな。

 河口干潟は海会の観察地である野島や平潟湾の干潟とは趣が異なり、と
てもよい勉強になりました。そして何よりも増して、童心に返って泥んこ
遊びができたのが日頃のストレス解消にもなり、最高でした。でも、こう
した河口干潟は次々と消えているのが現状です。トビハゼの生活の場もど
んどんなくなってしまいます。まだ、多摩川は良い方で、それでも僅かに
2km程度しか残っていません。隣の鶴見川は護岸で固められていて河口
干潟がありません。とても残念ですが、これが日本の都市部の河川の現状
です。

天候:曇のち晴れ、風:不明(たぶん南西風)

追記:坂本さんは木村さんからCOD測定キットをいただいて(せしめ
て)、アマモの種採りをした横須賀・走水と横浜・野島でCODを測定し
ていました。走水では、5段階の1番目で2ppm、野島では2番目で4pp
mだったようです(坂本さん、違っている場合は訂正願います)。山下公
園のCODも今年から測定することになりそうです。というわけで、野島
の定点観察では、新たにCOD測定が加わっています。COD測定やった
ことのない人、定点観察に参加してCOD測定してみませんか。




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