2002年7月13日(土)野島定点観察報告 


「カエルの子は・・・」

                        

参加者:坂本事務局長&子どもさん、鈴木副会長、工藤さん、諏訪部さん、
      安齋さん、川嶋さん、岡田さん(新人デビュー)、西さん(新人デビュー)、
      反田、ほかに関東学院・安田教授と研究室の学生・院生約30名、
      東邦大学・風呂田先生と研究生数名(環境省委託の干潟生物調査)、
      舵社の記者の方(取材)

 この日は盛り沢山の内容だったのですが、前日の曇りの天気予報を覆し
ての土砂降り。この雨の中を川嶋さんはダイビング器材を積んでバイクで
30分かけて来たそうです。前回の参加の時、私が自転車に器材を積んで来
たのを見てビックリするとともに「それならバイクでも…」と思ったそう
です。その私は女房に車で送ってもらっての参加で、川嶋さんにはちょっ
と申し訳なかったかな、と思っています。でも、10時過ぎには雨も上がっ
て「あぁ、良かった」って感じでした。

 何事にも色々と濃淡があるようで、この日は関東学院の講義や、東邦大
学の研究生の調査、それに舵社の取材もあり、海会の野島定点観察として
は「濃」の日でした。9時から研修センター地下の講義室で関東学院の講
義です。工藤さんと以前から親交がある筑波大・安田八十五教授(環境政
策論、環境経済学)が、この4月から関東学院大に赴任しておられ、夏休
み前最後の授業で、安田研究室の院生5、6名と講義を受けている学部生
20名ほどを連れて、地元の海で保全活動をする海会の調査を見学し、で
きれば手伝いたい旨の申し出を受けたそうです。

 講義室は既に席が一杯で、イスを追加するほどの盛況ぶり。卒業して2
0年以上経っている私も学生に戻った気分で、川嶋さんとともに講義を受
けました。まず、海会・事務局長の坂本さんが海会とその活動について説
明しました。ここに来ている学生は4年生としても21〜22歳程度。海
会はすでに発足後21年経っているとのことで、ここに来ている学生さん
がオムツをしていたか、あるいは母親のお腹の中にいた時には、もうすで
に海洋汚染に危機感を抱き立ち上がった人たちがいたと思うと感激!で
す。今回、講義を受けられた方の中から、一人でも二人でも海会に参加し
ていただけたら、と思います。

 坂本さんの後は工藤さんの野島の説明です。工藤さんは学生時代の卒論
のフィールドが野島だったそうです。その時から20年近く経って、その
間に環境が激変したのが野島ということでした。人工島の八景島が出来た
り、本来あった海岸が埋め立てられ、わざわざ千葉の山砂を入れて人工の
海岸である海の公園を造成したり、海と平潟湾を結ぶ水路が閉ざされたり
(現在は海とつながっています)。そんな中で、野島のアマモは水質が悪
化して光が届かなくなった90年代に一旦絶滅(あるいは絶滅寸前まで追
い込まれ)、2000年になって自然発生的に復活し始め、この好機にア
マモ場を復活させる努力が海会を中心に始まったところです。

 でも、その野島の環境が悪化する要因が二点あるそうです。ひとつは八
景島まで来ている国道(高速?)の延長計画。どのような工法がとられ、
どのような形になるのか知らされていませんが、水路の向かい側が日産の
工場なので、水路の上を道路が通る計画だそうです。これが実現される
と、工事による影響が懸念されるほか、仮に橋ゲタを架けて道路が上を通
ると、橋ゲタが与える影響だけでなく、橋による影が出来てしまいアマモ
だけでなく、生命活動の基本となる植物の光合成が阻害されてしまい、日
陰部分は死の海となってしまいます。

 もうひとつは砂の流出問題。侍従川など流入河川がほとんど源流域まで
護岸されてしまった結果、川からの砂の供給が減り、野島の海岸は年を追
うごとに砂が減り侵食がひどくなっているそうです。総延長140kmの
海岸を持つ横浜市で唯一残された僅か500mの自然海岸である野島の砂浜
が無くなってしまう危機にあるとのことです。これは単に野島だけの問題
ではなく、日本中の砂浜が抱えている問題とのことです。日本の海岸はコ
ンクリート護岸ばかりになった挙句の果てに、残った僅かな砂浜まで無く
なってしまうとすると、人間と海とがますます離れた存在になってしまい
ます。

 受講を終えて戻ると、他の皆さんは既にスタンバイ状態。時計は10時15
分を回っています。11時半からは毎月、定点観察で実況中継しているFM
ブルー湘南(78.5MHz)の『工藤孝浩のお魚図鑑』の放送があり、潜っ
ている時間が限られてしまいます。慌てて器材をセッティングしている
と、今回もボ岩側(海会の古参の方はボ岩と呼んでいるので、今回から
「棒岩」改め「ボ岩」にします)のアマモ調査野帳が回ってきました。
「5月、6月と付けたので、7月もやってもいいか」と思って気軽に引き受
けたのが失敗でした。一応、11時15分エキジットということを確認して、
エントリーしました。

 潜ってみると、予想以上に海中の濁りがひどくなっています。6月の時
は海底から50cm位は水が抜けていて助かったのですが、今回は底まで
濁っている状態です。しかも、昼過ぎが干潮とあって、潮が引くに連れ
て、潮干狩りで濁った水が流れ込んできて、透視度は悪くなる一方です。
1m先が全く見えない中での野帳付けは思いのほか苦労しました。アマモ
の全体像が判らず、ほとんど手探りでアマモの群落を確認する状況でし
た。潜っている最中に風が出てきたようで、底うねりが出て(といっても
最大水深1.4mで立てば頭が出る水深で、底も表層もありませんが…)、
すっかり波酔いしてしまいました。水中で酔ったのは87年の八丈島以来、
実に15年ぶりです。波酔いの原因には、メッシュ状のロープが無くなって
いたりして、野帳付けが大変だったこともあると思います。さらには外枠
のロープを固定している鉄の棒も一ヵ所、抜けかかっており、早急にメッ
シュの修理が必要だと思います。

 それでも、いくつか収穫がありました。まず、3月に植えたアマモの苗
が葉の部分だけで50〜60cmに生長。もともと生えていたアマモがちょう
ど枯れ始める時期で、葉が抜けたり途中で切れたりして見栄えがしない一
方、植栽アマモは若いためか元気に見えました。そして、何とメバルの幼
魚がアマモに寄り添うように斜め30度、上を向いて休んでいました。もう
すっかり揺りかごの役目を果たしています。濁り過ぎていて写真は撮れま
せんでしたが、植えた者としては感激!!!!です。そして「カエルの子
はカエル」というか、「揺りかご」の子はやっぱり「揺りかご」でした。

 もうひとつはボ岩近くで桜貝の貝殻を見付けたことです。桜貝は工藤さ
んによると「研究所の調査で、1998年1、3月に野島沖で計5個体採集
し、風呂田先生の海底環境の指標生物に関する研究では、弱過栄養海底の
指標とされ、野島の環境ではギリギリ棲息できる」とのことです。エキ
ジットする時に工藤さんが学生に生物を説明していたので、桜貝の貝殻を
渡すと「おぉっ!」と、ちょっと大袈裟なリアクションがあり、早速その
貝殻を使って熱心に桜貝の説明をしておりました。

 という訳で、浮上したのは11時半過ぎ。研修センター裏に戻ると、実
況中継はすでに終わっていました。今回は川嶋さんが担当。初の女性担当
です。聞いてみたかったなぁ。波酔いでまだ気持ち悪かったのですが、す
ぐに矢板側のアマモ観察に向かいました。今回は人手が多く、ちょっと余
裕です。私は観察風景を撮影することにしました。海に入ると、安齋さん
が「アサリが一杯だ」というので、早速、砂に手を入れると、アサリが絡
みついてきます。岸近くなのに、こんなにアサリがいるとは。潮干狩りの
人は沖に行ってしまうので、かえって岸の方に多かったりして。

 季節はずれの台風6号が日本列島を縦断するように来たばかりでした
が、アマモは健在でした。アマモとコアマモが混生しているところもあ
り、走水とは対照的でした。矢板には巻貝の黄色やピンクの卵が産み付け
てあり、海全体が繁殖の季節という感じです。そして前回、花の咲いてい
たアマモの群落には花枝があったのですが、すでに種がこぼれた後で、種
はほとんどありませんでした。この種が芽吹いてくれることを祈ります。
観察を終え、ちょっと潮干狩り。水中マスクに乗る分だけ採り、酒蒸しに
していただきました。もちろん、美味しかったですよ。

 昼食は例のボリューム満点というか行き過ぎの中華屋さんの出前。今回
は参加者が多く、頼んだメニューも多彩。私と諏訪部さんは冷やし中華を
頼んだのですが、違うものにすれば良かったかも、と思っています。ボ
リューム的にはちょうど良かったんだけど・・・・。諏訪部さんはどう
だったのでしょうか?食べ終わる頃には、再びポツリ、ポツリと降り出し
てきて、流れ解散となりました。

 観察した魚種は以下の通りです。
 メバル幼魚、ヒメハゼ、ハゼ科の幼魚(種不明、ホバリングしていた)

潜行開始:10時43分、浮上:11時32分、潜水時間:49分、水深:最大1.4
m、平均1.0m、水温:最低24.1℃、平均24.2℃、天候:雨のち時々晴れ
一時雨、風:南西風強し


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