2002年8月17日(土)野島定点観察報告 


「独り立ち」

                        

参加者:早川丸さん、坂本事務局長+お子様、伊東会長、鈴木副会長、
      木村(喜)さん、木村(尚)さん、工藤さん一家、諏訪部さん、
      安齋さん、反田

 夏というと水温が高くダイビングのベストシーズンと思われる方がいる
かもしれませんが、ここ野島だけは例外のようです。暖かい水と過剰な栄
養塩で植物プランクトンが湧きに湧いて赤潮一歩手前という感じです。し
かも、干潟や浅瀬には海水浴&潮干狩りの人手が多く、こうした人が巻き
上げた粒子の細かい砂や泥が、潮が引き始めると沖に流れてきます。この
ため、透明度は最悪の状態が続きます。普段、通勤で京浜急行の電車が侍
従川を渡る際に車窓から水の色を眺めているのですが、夏場はいつも濁っ
ています。この日も侍従川沿いに野島に向かうと、やはり濁っていまし
た。

 こんな最悪の透明度の中、海会の中でも「男くさい」人間ばかりが集ま
りました(もちろん、私は例外です?)。この日は、いつもの定点観察に
加え、午後からはアマモ場の保護のため、石を沈める作業があったので
す。同じ東京湾の潮干狩りでも千葉県側が中国・韓国・北朝鮮産のアサリ
を撒いて、入場料を取るなど管理されているのに対し、野島は天然物が採
り放題、入場料もタダなので、近隣はもとより、千葉方面などからもアサ
リ採りにやってきます。そして建前上は禁止されている鋤簾(じょれん)
と呼ばれる漁師が使用するアサリ採り器で、ごっそりとアサリを採ってい
きます。この辺の釣具屋に行けば鋤簾は2500円程度で簡単に買えてしまい
ます。鋤簾使いの人達は、浅いところで採っているならまだしも、腰まで
浸かって採っています(時には胸まで浸かる人も)。この鋤簾でアマモが
根こそぎ抜かれるケースが目立っており、野島でのアマモ場育成には鋤簾
対策が何よりも大事なのです。

 野島に着くと、すでに誰かの荷物が置いてありました。「誰のだろう」
ということになって、みんなで推理の始まりです。釣り用のクーラーボッ
クスがあったので「工藤さんのもの」という結論に達したのですが、実は
鈴木副会長の荷物でした。鈴木さんは大学でシロギスの研究をしているそ
うで、研究サンプルを採集するため、朝早くから野島沖に立ち込んで、シ
ロギスを釣っていたのでした。そして、型は小さかったのですが、9時の
集合時間までに綺麗なシロギスを2尾もゲットしていました。私は野島沖
の水中ではシロギスを見たことがなかったので驚きでした。いつか、水中
で見てみたいものです。

 伊東さん、鈴木さん、工藤さん、諏訪部さんと私の5人が水中班を担
当、残りの方が陸上と水面班(スキン)に分かれてボ岩側の定点観察に入
りました。アマモの野帳付けはこのところ、私が担当していたので、今回
も野帳を持たされてしまいました。カメラに野帳で両手は一杯でしたが、
だいぶ慣れてそれほど苦にはなりませんでしたが、濁りがひどくやはり1
m先も見えません。目の前のところさえ霞んでいます。どうにか春にアマ
モの苗を植えたところに行くと、すでに諏訪部さんがビデオ撮影に入って
いました。諏訪部さんの横には割り箸が落ちています。アマモの苗は根が
貧弱なので、波などで抜けないように割り箸にゴムでくくりつけて植えた
のですが、根が張って割り箸が不要になったので、「きっと諏訪部さんが
抜いたに違いない」とその時は思っていました。

 あとで諏訪部さんと話した時に、諏訪部さんが「何であんなに割り箸が
抜けていたんだろうねぇ」と言っていました。「えっ?諏訪部さんが抜い
たんじゃなかったんですね!」。どうも自然に抜けたようです。私が最初
に植えた第1号の苗は木村(尚)さんにちなんで「尚ちゃん」と名付けた
のですが、その尚ちゃん苗は非常に元気な様子で、しかも根元の近くから
は別の葉も出ていて、早くも地下茎を張り始めたのかもしれません。尚
ちゃんの横には割り箸が2本も落ちていて「もう割り箸なんて必用ない
さ」と言っているようです。アマモが自分で割り箸を引き抜くことはない
にしても、根が張りつめたことで割り箸を押上げた可能性はありそうで
す。いよいよ、苗の「独り立ち」の時を迎えたのでしょう。秋には段々と
透明度が上がってアマモに陽が注ぐと光合成を盛んに行って、葉や根が
もっと確りして「大人」のアマモになってくると思います。自分が植えた
苗がここまで丈夫に育ってくれたと思うと、感激ひとしおです。

 アマモの野帳付けは濁水の中で大変でしたが、海底に半ば埋まっていた
メッシュ枠のロープを泥の中から抜きつつ、手探りで何とか仕上げまし
た。所要時間40分。透明度が高ければ10分もあれば終えられるのに! 途
中、アマモの陰からシマイサキの成魚とご対面。あちらさんもビックリし
たようで、体をやや斜めにしながら後ろを見つつ、飛ぶように逃げてしま
いました(というか、直ぐに濁りの中に消えてしまいました)。野帳付け
を終えて、とりあえず水道管魚礁に向かおうとしたら、ヒメジの幼魚がい
ました。濁りの中でも黄色いヒゲが良く目立ちます。対女性にはシャイな
私ですが、魚に対しては非常にしつこく、濁りで見失わないよう追い掛
け、かろうじてカメラに収めました。途中、方向を見失ったのですが何と
か魚礁に着くと、メバルが増えたように見えます。ここでもメバルの写真
を撮ったのですが、撮った本人しか判らない写りになってしまいました。

 ボ岩に戻ると、フグの幼魚がいます。ウネリにまかせ、左→右→左と
行ったり来たり。クサフグに似ているのですが、黒班が無いので別種か、
あるいはクサフグの子どもは黒班が無いのか…どちらかと思いながら、撮
影を試みたのですが動きが速く、やっとの思いで1カットだけ撮影。あと
で木村(喜)さんに聞いたら、ショウサイフグとのこと。クサフグは幼魚
でも黒班があるそうです。ボ岩の岸側には餌のオキアミの入った採集ビン
が沈めてあって、中には巨大なイソギンポ(その時は別な種類かと思って
ましたが…)など、一杯入っていてビックリ。鈴木さんが仕掛けていたの
でした。ビンの横には、オキアミの臭いにつられてイソギンポが泳いでい
ます。これはチャンスと思った瞬間、彼はボ岩の穴に入ってしまいまし
た。またもや殺気がオーラのように出てしまったのでした。

 器材を洗って、あの大盛り中華屋さんの出前です。ほとんどの方は中華
カツカレーを注文しましたが、私は前回、安齋さんが美味しそうに食べて
いた唐揚げ定食にしました。正解でした。でも、ご飯がどんぶりに押し付
けるように入っていて、食べきるのに一苦労です。胃袋が広がって、かが
めない状態です。日陰でのんびりしていると、坂本さんから「岩の移動」
の号令がかかりました。作業上、@岩を船に乗せる班、A船から海に入れ
る班、B水中で岩を移動する班…の3班に分かれます。「○○男、金と力
は無かりけり」を地でいく私は(○○にはエロとか好色とかの文字を入れ
ないでね)、体力的にどの班にも向きませんが、工藤さん、諏訪部さんの
潜水夫&漁師コンビとともにBの水中班になりました。ウエットを着よう
とすると、食べ過ぎてチャックができない状態です。チャックをすると今
にも唐揚げが出てきそうでギモジワル〜って感じです。それでも何とか着
込み、せっかく洗った器材をつけて出発です。

 台風が近づいているせいか、急に空は鉛色に曇って、北東風も吹いて波
立っています。そんな中、早川丸に坂本さんと木村(尚)さんが乗って、
大量の岩とともにやって来ました。映画『眼下の敵』(ちょっと古いか)
の駆逐艦が爆雷を打ち込むように岩をどんどん放り投げます。端から見る
と船上の2人は楽しんでいるのか、あるいはストレス発散しているように
しか見えなかったのですが、濁りの中でこの岩を運ぶことを考えると、こ
ちらは非常に憂鬱です。船が去って、早速、潜ると岩が山になって沈んで
いました。「重いんだろうな」と思いながら持ち上げると、岩の体積分の
浮力が生じ、若干軽くなっているため、それほどでもありませんでした。
でも、方向が全く判らない。コンパスは壊れて使い物にならないし…。

 どうにか1個運んで、何度か浮上して場所を確認しながらやっとの思い
で、岩山まで戻り、また1個運んで、次に戻るともう岩が無くなっていま
した。「うぅ!工藤さんと諏訪部さんはこんな濁りの中でも方向が判るの
か!」と焦りを感じながら、次は頑張ろうと浮上していると、駆逐艦が容
赦なく次の岩爆雷を投下していきます。今度こそと思いながらも、戻ると
また岩山が片付いています。あとで聞いたのですが、元の場所に戻る自信
がなかったとのことで、数個を少しずつ動かしながら岩山ごと運んだとの
ことでした。そうか、それで戻ると岩山が消えていたんだと妙に納得しな
がらも、最初からそうすれば良かったと後悔。焦るあまり2人より先に
潜って岩をかかえて四苦八苦していたのでした。2人の様子を見ながら、
ゆっくりやりゃあ良かった…のに…。

 船が数回往復して、対「鋤簾軍団」の要塞ならぬ石垣がほぼ出来上がり
ました。以前に並べたブロックはすでに魚礁の役目をしていて、ブロック
の間にはギンポ(?)が棲み付いており、石垣はブロック以上の良い魚礁
の役目も果たすでしょう。作業を終えて駆逐艦・早川丸に乗せていただ
き、矢板側に回ったのですが、満潮で水位がかなりあり、水も激濁りのた
め今回の矢板側調査は中止せざるを得ませんでした。北東風が強まってき
たので、棒岩に戻らず運河を通り平潟湾に出てバーベキュー場の辺りに戻
ることにしました。ちょうど野島を4分の3周位、回る感じでしょうか。平
潟湾は島陰となり水面が真っ平らでした。ここは、コンクリートの壁で囲
まれた状態で、岸辺に棲む生物の居所が無いのが非常に残念です。湾内か
ら見ると、なおさらそれを感じます。人で一杯のバーベキュー場から上陸
して(ちょっとだけ気恥ずかしかったのは私だけ?)、この日の活動は終
了となりました。

 観察した魚種は以下の通りです。
メバル、ヒメジ幼魚、シマイサキ、ウミタナゴ、イソギンポ、ギンポ(?)、
スジハゼ、ヒメハゼ、ショウサイフグ幼魚

1本目:潜行開始:10時06分、浮上:11時25分、潜水時間:1時間19分、
     水深:最大2.5m、平均1.6m、水温:最低27.1℃、平均27.1℃、
2本目:潜行開始:13時24分、浮上:14時32分、潜水時間:1時間07分、
     水深:最大2.1m、平均1.8m、水温:最低27.9℃、平均28.0℃、
天 候:曇のち晴れ時々曇りのち曇り、風:北東風

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