2002年9月21日(土)野島定点観察報告 


「舌の記憶」

                        

参加者:坂本事務局長とお子様、鈴木副会長、木村(喜)さん、
      木村(尚)さん、工藤さん、諏訪部さん、反田

 この日は盛り沢山の内容です。第3土曜日なので定点観察の日なのです
が、今回は「野島自然観察探見隊」との合同で、潮干狩りの副産物である
バカガイ(青柳)とツメタガイを味わうという企画です。探見隊は野島を
活動拠点として子ども達に自然を体験してもらい、年間を通していろいろ
な活動を行っているグループです。野島は潮干狩りのメッカですが、本命
のアサリだけでなくバカガイやツメタガイも沢山採れます。しかし、バカ
ガイは砂を吐くのが苦手なことから捨てられるケースが非常に多く、ま
た、ツメタガイは食べられないと思っている人が圧倒的に多く、やはり持
ち帰る人はほとんどいません。これまで、何回か書いてきましたが、バカ
ガイは生きているのに陸地に捨てられてしまうこともあり、それにツメタ
ガイもアサリの敵として陸地に放置されたりして、本当にかわいそうで
す。自然界のバランスを考えたら、採れたものは分け隔てなく胃袋に収め
るのが一番!ということで、子ども達への啓蒙もあり、海会メンバーが採
集・調理役、探見隊が食べる役と、見事な役割分担で企画進行となりまし
た。

 今回は探見隊と合同で食べるだけではなく、海会有志によりキスの脚立
釣りの復活計画も密かに練られていたのです。東京湾では昔、浅瀬でアオ
ギスの脚立釣りが風物詩となっていました。そのアオギスは汚染とともに
東京湾から姿を消してしまい、今では九州のごく一部でしか見られない幻
の魚です。埋め立て、あるいは浚渫などもあり、脚立釣りが消えて数十年
も経っています。この風景を復活させようと、木村(尚)さんが海会一の
釣りキチの鈴木さんや工藤さんに提案したのでした。そして、この日、横
浜に唯一残る自然の海岸であるこの野島で、二人によってキスの脚立釣り
が見事に復活したのでありました。昔と違うところは、脚立がアルミ製、
竿がカーボン製、狙う魚がアオギスではなくシロギスといったところで
しょうか。

 さらには、午後から小学生によるハゼ釣り大会があります。子ども達に
ハゼ釣りを楽しんでもらい、海を大切にしてもらう狙いのようですが、こ
れにも工藤さんが関係していて、釣ったハゼは子ども達に体長(全長?)
を測ってもらい、野島のマハゼの資源調査まで兼ねてしまう欲張りな企画
です。ハゼ釣り大会の受け付けでは、野島の海の生き物を展示して、大会
に参加した子ども達に見せたいとのことで、海会メンバーはバカガイ・ツ
メタガイ採集のついでに、余裕があれば生物採集もすることになりまし
た。

 探見隊の子ども達が10時半には集合するとのことで、それまでに採集を
済ます必用から、海会の集合時間の9時過ぎにはセッティング開始。手に
はカメラや野帳ではなく、熊手と貝を入れる網を持ってエントリー。干潮
は10時半過ぎですでに潮がかなり引いていたので、濁りを覚悟していたの
ですが、結構、水が良いので安心しました。ボ岩の手前で潜行、私は「他
のメンバーがバカガイを採ってくるはず」と勝手に決め込んで、最初から
ツメタガイ狙いにしました。目標20個。アマモの観察場所の近辺から貝の
這った痕を捜しましたが、今年は異様にアオサが多く、アオサをかき分け
ながらの作業です。それでも、泥には何かが這ったような痕が残っており
「この辺かな?」と熊手を入れると手応えがあります。まずは1個ゲッ
ト。これでオデコは逃れました(釣り用語で何も釣れないこと)。

 それでも、アオサが揺れて這った痕を消してしまうのか、今回は効率が
悪く、ここだと思って熊手を入れても、当たる確率は5割を切ってしまっ
た感じです(といっても、マリナーズのイチロー選手の打率より良いもん
ね〜)。時々、ツメタガイの足に熊手の先がグサリと刺さり、手に伝わる
感触が何とも気味悪く、この時ばかりは悪いことをしている気分になって
しまいました。さらには、ここだと思って熊手を入れたら、魚が慌てて砂
の中から飛び出して逃げたり、カニが逃げたり、向こうも相当驚いたんで
しょうが、こっちもビックリです。何とクルマエビまでも飛び出してきま
した。尾が美しく見とれていると、少しずつ体を振りながら砂に潜ろうと
したので、狩猟本能からか無意識のうちに上から押さえつけていました。
ハゼ釣り大会の展示用にしっかりとゲット。ついでにイボガザミ(?)も
ゲットして満足。肝心のツメタガイ採取も目標を達成しました。採られた
方には気の毒ですが、本能が満たされるって良いですねぇ。

 時間が限られているので、早々に戻りかけると鈴木さんが仕掛けたセル
ビンがボ岩にありました。中にはアミメハギ(一部はカワハギの幼魚?)
がかなり入っていました。そういえば今年はアミメがやたらに多い! ア
オサが隠れ家を提供しているためか、アオサが繁茂しているところでは1
平方メートルに10尾以上もいたところもありました。アミメくん達に別れ
を告げて水面に顔を出すと、その先には見事に復活した脚立釣りが見えま
す。でも、その周りもアオサだらけのはず。後で聞いたら、やっぱりアオ
サが邪魔をしてシロギスは釣れず、鈴木さんがメゴチ(釣り人はネズッポ
の仲間をこう呼び、コチ科のメゴチとは異なる)を釣っただけで、あとは
外道としてクサフグが掛かっただけだったとか。まあ、釣果は別にして
も、脚立釣りが復活したことに意義がありますよね?

 全員、エキジットして袋の中身を見せ合うと、何と何と、全員がツメタ
ガイだけを採ってきたのでした。バカガイがない片手落ちになってしまい
ます。そういえば、沖にはバカガイがほとんどいなかったなぁ。ツメタ狙
いは私だけかと思っていただけに、ちょっとショックです。まだ時間が
あったので、急きょ、重器材を置いてバカガイ狙いの潮干狩りとなりまし
た。マスクを着けて水中を除くと、水管が2本づつ見えます。大きめの水
管のあるところを掘るとアサリでした。水管に比例して大粒。そして、
掘っても掘っても出てくるのはアサリばかり。春先にあんなにいたバカガ
イは一体どこに行ってしまったのでしょうか。バカガイの貝殻は沢山ある
のに、生きた貝がいません。仕方なく大粒のアサリをキープすることにし
ました。結局、10分以上もやって、採れたバカガイは3〜4個程度。鋤簾で
痛めつけられて、いなくなってしまったのでしょうか、不思議です。

 工藤さんが子ども達に野島の海と生き物を説明、諏訪部さんがFMブ
ルー湘南に初の生出演したそうです。諏訪部さんの渋い解説(想像する
に)を聞きたかったなぁ。器材を水洗いしたりしているうちにツメタガイ
は茹で上がっていて、坂本さんと諏訪部さんが慣れた手つきでアサリをバ
ンバン剥いていました。私も早速、アサリ剥きに加わると、子どもが興味
津々に色々と聞いてきます。「アサリが油断している隙に、ナイフを突っ
込んで貝柱を切るんだよ」などと適当なことを言って、「この貝は警戒し
てしまったから、ナイフが入らないや」と、旨く剥けなかった言い訳なん
ぞをしたり。ある程度、剥いたところで、坂本さんが探見隊のメンバーに
剥き方を教えて、海会のメンバーはアサリ剥きから開放されました。いつ
も思うんですけど、海会の人って平日はサラリーマンなんですかね? 手
つきを見ていると、漁師じゃないかって思ってしまいます。

 いつもの中華の出前をとって、午後からは漸くアマモなどの定点観察で
す。ところが、午後は潮がかなり上げて来ており、矢板側は水深が深く
なってしまい、観察はボ岩側だけにとどめ、矢板側は中止となりました。
ボ岩側の野帳付けはタンクの残圧がちょうど半分の100気圧となっていた
こともあり、今回は沖に向かって左側の枠を諏訪部さんが、右側の枠を私
がそれぞれ担当。観察する面積が半分になって、しかも先月8月の時より
透明度が上がっていたので、余裕でクリアできました。夏の間ずっと濁り
が入っており、陽射しが遮られ光合成できなかったためか、葉の丈は今ま
で見た中で一番短くなっていましたが、アミメハギやニジギンポが多く、
揺りかごの役目はしっかりと果たしておりました。3月に植えた苗は若い
せいか、非常に元気で葉の丈も短くなっていません。これから、光を沢山
受けて、どんどん生長することでしょう。木村(尚)さんがしきりに言っ
ていたのですが、アマモの周りには不思議とアオサがありません。何か忌
避物質でも出しているのでしょうか。

 野帳付けを終えて帰る途中、残圧が50近くあったので寄り道したら迷っ
てしまいました。水上バイクが上を走っていたので、左手で野帳を高く差
し出しながら浮上。すると、突堤の先に来ていました。こんなところに来
たのは初めて。突堤では釣りをしている人が一杯いたので、釣り糸が絡ま
ないように急いで戻りました。諏訪部さんが浜で待っていてくれました。
どうも私が最後だったようです。次回からは、あまり寄り道しないように
しなくっちゃ。でも、ミドリガイというウミウシの仲間に似たウミウシを
2匹も見つけることができました。陸に揚ってから木村(喜)さんにデジ
カメ映像を見せると、ゴクラクミドリガイ科の「コノハミドリガイ」と教
えてくれました。海会には「歩く図鑑」が何人もいらして助かります。子
どもたちは出来上がったアサリの干物とツメタガイを食べていました。私
もツメタガイを戴くと「うん? どこかで食べたことがある味!」って感
じです。「どこか」とは、もちろん安い飲み屋なんですが、サザエやツブ
ガイとして出されたものにはツメタガイが結構あったりして…。

 観察した魚種は以下の通りです。
メバル、ヨメヒメジ、ウミタナゴ、ニジギンポ、ネズッポ科の1種、ニク
ハゼ(?)、スジハゼ、アシシロハゼ、ヒメハゼ、クロウシノシタ(たぶ
ん)、アミメハギ、クサフグ、ほかに諏訪部さんはヨウジウオを多数目撃
とのこと

〔1本目〕潜行開始: 09時35分、浮上:10時17分、潜水時間:42分、
      水深:最大1.7m、平均1.2m、水温:最低22.4℃、平均22.7℃
〔2本目〕潜行開始: 13時54分、浮上:14時55分、潜水時間:1時間01分、
      水深:最大2.2m、平均1.4m、水温:最低22.8℃、平均22.8℃
 天 候:晴れのち曇り、風:弱い北東風

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