2003年2月15日(土)野島定点観察報告 


「ふたつの幻」

                        

参加者:伊東会長ご夫妻、坂本事務局長、木村(尚)さん、工藤さん、
     荒井さん、角石さん、安齋さん、高橋ご夫妻、滑川さん、鈴木(賢)さん、
     反田(ほかにも何人かいらしたのですがお名前が分かりませんでした)

 今年も2月を迎え最も寒い季節となりました。寒い時のダイビング、皆
さんはどんな防寒対策をしているのでしょうか。私はまず、体質改善を図
ります。ちょっと、というか、かなり爺くさいんですが、毎年、秋になる
と養命酒を買って朝晩、飲み続けます。すると1ヵ月くらいで血流が良く
なって、寒くても温かい部屋に入ると回復が早くなります。でも、今シー
ズンは養命酒を買うのを忘れ、体質改善が間に合いませんでした。どうし
ようか迷っていたんですが、前回1月の野島定点観察の時に、木村(尚)
さんが坂本さんを見ながら、傍らの私に「あの人は、あれだけ食べていな
がら太ってないのは、カプサイシンが脂を燃やしてくれるおかげだよ
ねぇ。カプサイシンの効果って、すごいよねぇ」と独り言のように言うの
を聞いて「これだっ!」と思いました。木村さんは高脂血症気味の私を
慮ってヒントをくれたのだと思いますが、寒い季節はカプサイシンで乗り
切るっていう手がありました!

 カプサイシンとは唐辛子の辛味成分で、脂肪燃焼効果や血行促進効果が
あると言われています。坂本さんは懐にいつも一味唐辛子のビンを忍ばせ
ていて、毎食、ご飯の上に真っ赤になるほど唐辛子をかけて食べるという
話があります。そして冬でも裸足にサンダル履きです。早速、1月の野島
定点の翌日から一味唐辛子を買い込んで、試してみました。3日目から指
先まで血が流れるのが分かるくらい血行が良くなりました。こうして1ヵ
月ほど、カプサイシンを連続摂取して臨んだのが2月の野島定点観察でし
た。

 前置きが長くなりましたが、今回の野島定点観察では、いよいよアマモ
の苗を植え込むためのメッシュロープ張りがメインとなります。今回も人
数が多く、円陣を組んで木村さんのブリーフィングからスタート。5m×5
mの中にロープを繋ぎ合わせて1m角のメッシュを作ります。まずは、5m
ちょうどのロープでは結ぶことができないため、両端に結びしろを20cm
づつとった5.4mのロープを12本用意するとこらから始めます。ロープに
は、マジックで1m間隔に印を付けます。言葉で書くと簡単のようです
が、実際は結構、手間のかかる作業でしたが、皆さんが積極的に協力して
作業したので、スムーズにいきました。そのロープを縦6本、横6本に並べ
て、印を付けたところが交点として結び付けて、立派なメッシュが出来上
がりました。前回はこれを水中でやったから、本当に大変でした。潜水時
間は100分を超えるハードなダイビングでした。今回はその反省もあっ
て、陸上で出来ることは陸上でやることにしたのでした。

 5m×5mの四隅と中間に鉄杭を結び付けて完了です。これを野島海岸ま
で運び、設置となります。事前に木村さんが下見していて、設置場所はノ
リヒビのボ岩側の縁の延長線上にすることにしました。今回は陸上班が多
かったため、設置作業員は木村さん、坂本さん、伊東さん、高橋さん、反
田の5人だけ。ドライスーツを着込んでの作業です。そのままでは浮いて
しまうので、ウエイトを着けますが、私は腰の保護のため、4kgをBC
のポケットに入れて研修センターにBCごと置いてきており、ウエイトが
4kg少ないことに加え、ウエイトベストを使用しているので重心がちょ
うど胸辺りと高く、非常にアンバランスな状態になってしまいました。し
かも、最悪なことにアンクルウエイトを家に忘れてきてしまいました。設
置場所に着いた時には、体がフワフワと浮いてしまい、結局、何の役にも
たたず、ただの邪魔者になってしまった感じです。そのロープ張り作業は
簡単なようで実は大変な作業だったのでした。波が次々と押し寄せて、最
初は菱形になったりして、正方形にするのが大変。それでも、そこは鍛え
ぬいた潜水夫の皆さま! 最後はきれいに真四角にロープを張って、見事
にメッシュの設置が終わりました。3月には、ここにアマモの苗を植える
ことになります。

 メッシュ設置後、木村さんは早川丸に乗って、先に植えたアマモの調査
に向かい、残りの4人はそのまま矢板に行き、矢板でのアマモの調査とな
りました。この日も潮の引きが弱く水深があり、人数が少ないこともあっ
てアマモの調査は大変だったのですが、高橋さんがフィンを着けて能率的
にアマモを見付けてくれたので、何とか終了することができました。前回
まであった株が無くなっているケースもあり、北風が強く吹いて波で流さ
れたのかもしれません。アマモの必死になって根を張らないと生きられな
いんですね。海の中の植物も、大自然の中で生き抜くのは大変だなぁと、
つくづく思いました。ただ、全体としてみると大きな群落を中心に健在と
言える状態なので、春には花が一杯咲いて、梅雨前には実を沢山結ぶもの
と期待できそうです。

 カプサイシンで武装したにもかかわらず、またも手首と足首から水没し
ていた私は矢板の観察の途中から震えが止まらなくなってしまいました。
矢板の観察を終えて、途中、ゴミを拾いながらも研修センターまで急いで
戻りました。海会ではこれまで、野島定点観察の時にゴミを拾うことはな
かったのですが、今回から陸上班も含めてゴミを拾って、少しでも海を綺
麗にすることになったのです。この日もペットボトルや各種の袋類など、
ちょっと拾っただけで両手が一杯になってしまいました。まだまだ海の中
にはゴミが沢山あって、拾えたのはほんの僅かですが、拾った分だけ海が
綺麗になったことは確かです。海会メンバーがゴミを拾う姿を見て「海を
汚さないようにしよう」と思ってくれる人が1人でも増えればと期待しま
す。

 矢板の観察を終えると待ちに待った昼食です。今回、私は五目カタ焼き
ソバを注文しました。ほかに柔か麺の普通の五目焼きソバを頼んだ人がい
たのですが、カタ焼きそばの方がどうみても量が多く、通常の2人前はあ
ります。陸上班の人たちが拾ってきた海苔をいただきながら食べたのです
が、食べきれませんでした。何と新人の鈴賢さん(海会に鈴木さんが2人
になりましたので早くもニックネームが付きました)が残りを引き受けて
くれました。若い人の胃袋はすごい!

 食べ終わってくつろいでいると、研修センターの方が「見慣れない貝が
持ち込まれたので見て欲しい」と言ってきました。貝はほとんど判らない
のですが、とりあえず坂本さんの図鑑を借りて何人かでセンターの地下に
ある水槽に行くと、貝殻の上にワカメの根っこがついたアカニシのような
巻貝がいました。この貝はワカメを引っ掛けていて貝殻に着いたワカメと
一緒に採れたそうです。貝殻の外側はヒダヒダに覆われていて、初めて見
る貝です(ヒダヒダは付着物ではなく、貝の一部とのことです)。結局、
名前が判らずにいると、工藤が来てくれました。「おぉ、カコボラじゃな
いですか。これは珍しい! 野島では初めてじゃないかな〜」と感心して
おりました。名前からするとホラ貝の1種のようです。結局、野島での初
物ではなかったのですが、ほとんど見られない幻の貝で、以前、野島で見
付かったものはかなり前だったようです。貝を入り口(?)の方から見て
安齋さんが「付けマツゲをした女の子の目のようだ」と言っていました。
何とも言えない例えなのですが、正にその通り!って感じで味のある姿を
していました。

 そして午後からはボ岩側の潜水観察です。しかし、水没と寒さで体力を
消耗してしまった私は夕方に出掛ける用事もあって、ここで失礼すること
にしました。水温は完全に10℃を下回っており(伊東さんによると8.5℃
でした)、無理は禁物です。ところが、私が帰ったあとに大変なことが
あったのです。それは、またまた超レア物が見付かったことです。伊東さ
んがボ岩の西側30〜50m沖で二枚貝のタイラギを見付け、撮影したので
す。大発見です!!! 殻の幅は10cmもあったとのこと。タイラギは有
明海などで採れる重要な食用の貝で、かつてはこの野島沖などの東京湾に
普通に棲息していたようなのですが、今ではほとんど絶滅状態で幻の貝に
なってしまったのでした。それが野島の定点観察で棲息が確認されたので
す。凄いことです。次に何が出るか判らないところが生物観察の面白みで
すね。次回はドライスーツの手首を改良して水中観察に臨みたいと思いま
す。もちろん、カプサイシンを摂って!


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