2003年4月19日(土)野島定点観察報告 


「胸のふくらみ」

                        

参加者:特別ゲスト=パタゴニア横浜店の皆さま31人、
     坂本事務局長と海会ジュニア会員5人、木村(尚)さん、工藤さん、
     西先生、深沢さん、荒井さん、諏訪部さん、川嶋さん、岡田さん、
     高橋さんご夫妻、滑川さん、山根さん(新人)、反田 ほか

 この日は朝から強い南西風が吹いて嵐のようです。でも自転車で野島に
通う私としてはラッキーにも追い風! こがなくても前に進みました。人間、
一度楽をすると味を占めてしまうようで「帰りは風が変わって、また追い風に
なったらいいなぁ」などと楽観的に考えていたら、帰りはもっと吹き荒れて
いて往きで楽をした分以上に苦労させられました。今回は風のおかげで
遅刻もせず、9時10分前には野島に入ることができました。しかし、集合
場所の研修センター裏に行くと何かが変です。人が少なく、しかも来ている
人はちょっと疲れているようで、何か重た〜〜い空気が流れていました。

 そうです、この日は大潮。ということは潮が大きく退いて干潟ができる
日です。ということで潮干狩りの人の車で駐車場は8時前から満杯。朝も
早くから手前の道路は駐車場待ち渋滞だったのでした。「ただでアサリの
採れる海岸」として、この一帯は年を追うごとに有名になり、昨年は大潮
の休日ともなると、車を路上に放置する訳にいかず、父親だけが車に残
り、それが野島や海の公園の道路じゅうに列をなす状態で、母と子だけが
潮干狩りを楽しむという光景が毎回見られました。近くのレストランや
スーパーでは食事や買い物もしない人が駐車場に車を止めっぱなしにし
て、大問題になったほどです。警察も稼ぎ時とばかりに駐車違反の取り締
まりへ署を挙げて(?)出動しています。

 今回は通常の定点観察に加え、「1%for Planet」など環境問題に取り
組むアウトドア・ウェアのパタゴニア横浜店と合同で海浜清掃する特別
バージョンです。私はダイビング器材をオーバーホールに出している関係
で、今回は初の陸上班として参加。その海浜清掃では、通常のゴミ拾いの
ほかレジンペレットの調査も行なうことになっています。レジンペレット
とは1mmから数mmの粒状に成型されたプラスチック樹脂の総称です。
プラスチックの成型工場などからこのペレットがこぼれたりして川に流
れ、海を漂って最期は浜に打ち上げられることになります。このペレット
は鳥や魚が餌と間違えて食べるなど直接的な被害に加え、ペレットに含ま
れる添加物が溶出して、最近大きな問題となっている環境ホルモンとなっ
て海を汚染しているのです。環境ホルモンとは、動物の体内にあるホルモ
ンと似たような働きをする物質のことで、例えばオスにメスの生殖器がで
きてしまうなど、生体の持つ機能を攪乱する悪者だったのです。

 野島の周辺の海というか、東京湾の内湾全体が護岸だらけ。あのアザラ
シのタマちゃんが日向ぼっこできるところが海岸沿いにないため、タマ
ちゃんは上陸できる所を探して、多摩川、帷子川、荒川と何10kmも移動
しなければならないのが実情です。川から流れてきたペレットが漂着でき
る浜は東京湾にはほとんどなく、このため天然の砂浜がある野島は「ペ
レット銀座」と言って良いほど、ペレットが集まっているそうです。私も
定点観察の際、砂浜を観察して「随分落ちているなぁ」という感想を持っ
た記憶がありますが、これまでペレットを拾い集めて数を数えたことはあ
りませんでした。今回は1m×1m(1平米)の枠内に何個あるか定量的に
調査します。ということは、1m×1mの枠が必要です。そこで裏山に生え
ている笹を利用して枠を4つ作成することにしました。滑川さんがダイ
バーズナイフで笹を取ってくれまして、それを他のメンバーで手分けして
ヒモで結び、あっという間に枠が出来上がり。海会の人はこういう作業は
本職と見間違うほど速い!

 実は、私は前の会社で教育関係の出版会社GK社のオモチャ部門でオモ
チャの企画制作の仕事をしており、プラスチックの成型工場には良く足を
運び、レジンペレットには親しみがあります。オモチャの場合、多くはイ
ンジェクション成型といって、樹脂を溶かしたものを金型に注入、冷やし
て固まると出来上がります(プラモデルなどはこうして作ります)。工場
(いわゆる町工場)にはペレットの入った袋が無造作に置かれており、周
辺にはペレットがこぼれていました。掃除しきれない分が外に出て、いろ
いろな経路で川あるいは直接海に流れこむと思われます。

 調査用の枠の作成と前後して、パタゴニアの皆さまが到着しました。店
員の方とお客さん合わせて総勢31名。陸上の定点観察から合流して、昼食
後、ペレット班と清掃班に分かれて、海浜清掃することになりました。ま
ずは定点観察。私は陸上の定点観察が初めてでしたので、ベテランの荒井
さんが先導、工藤さんらが生物や周辺環境を説明。バーベキュー場前の水
路→葦原→前浜の順に進みました。すでに潮が退いて潮干狩りの人・人・
人…って感じで、いつもなら餌を食べているチゴガニやコメツキガニもこ
の日ばかりは巣穴から出られず困った様子。でもニホンスナモグリやタマ
シキゴカイなども見られて成果がありました。今回はスケジュールがビッ
シリのため、いつもの中華屋さんの出前をとっている余裕がなく、各自持
参した弁当を食べました。

 午後からは前浜で海浜清掃です。私はレジンペレット班となりました。
枠は4つあり、1つの枠にそれぞれ3人、全部で12人がペレット班となり、
残りの方は清掃(ゴミ拾い)班になりました。私の班は若いカップルの2
人が加わりました。聞くと東海大学の環境問題関係のサークルに所属して
いるそうです。自分の学生時代を考えると頭が下がります。2人はレジン
ペレットを見るのが初めての様子です。プラスチック製品は皆、ペレット
から出来ていることを説明すると「どうして、こんなものが海に流れてく
るんですか?」とごく自然の疑問。まさか海に大量に捨てる人がいるはず
もなく、結局は成型工場などの管理の甘さが巡り巡って海洋汚染につな
がっているとしか考えられません。

 坂本さんが「では、ここでお願いします」と言って枠を置いたところ
は、満潮時に波しぶきがかかる辺りで、小石や貝殻が集積しているところ
でした。最初は3人で雑談しながらでしたが、みんな段々真剣になって口
数が減りました。というのは、ペレットはポリエチレン、ポリプロピレ
ン、ナイロン、ABS、ポリカーボネート…など種類によって大きさが異
なり形や色も様々。形だけ見ても、まん丸から楕円の球形、円筒形、円盤
型、赤血球のように真中がくびれた円盤型などいろいろ。「いかにも」と
いうペレットど真ん中のものもありますが、砂などにこすれて表面がきざ
きざになって小石に似たペレットや逆にペレットに似た小石などもあり、
強い陽射しと強風の中で座っての細かい作業はかなりシンドイものでし
た。そして何よりも無口にさせたのはペレットの多さ! 「おぉ、ここに
も! ここにも!」と心の中で絶叫続きの作業でした。他の若い2人も同
じだったと思います。

 丸々1時間かけて1m×1mの枠内に存在したペレットの9割以上はゲット
できたと自負しています。3人で合計432個もありました。単純計算では5
cm四方にひとつです(実際は砂に埋もれていたりして3次元的に分布し
ていますが)。実は私たちの調査した地点は大潮の満潮時に波が当たるた
め、比重が0.9〜1.9程度(ほとんど1.0前後)のペレットは引き波で持ち
去られるようで、432個という数字でも最も少ないことが判りました。も
う少し(1〜2m)陸側は小石が少なく完全な砂地になっており、ここには
1平米当たり1800〜2100個もあったのでした。砂の中から拾うのも大変で
すが、数えるのも大変な数字です。たった1平米でこれだけですから、他
の場所でも同じように分布しているとすると野島海岸全体では大変な数に
なります。しかも浜に打ち上げられただけで、こんなにあるのですから、
海を漂っていたり、海中に沈んでいたりするものを含めると、それこそ天
文学的な数字になってしまいます。

 集めたペレットの色的には圧倒的に透明〜半透明〜白色という範疇に入
るものばかりでした。オモチャ用のペレットは非常にカラフルですので、
調査を始める前には文字通り色々な色があると思っていたのですが…。確
かに赤や青、黄色、黒などのものはあったのですがどれも少数派です。着
色してあるものは目立つことに加え餌に似ていて鳥などに食べられてしま
うのかもしれません。世の中に出回っている透明のプラスチックで多いも
のとしてはペットボトルとか、自動車のヘッドランプのカバーなどがある
と思いますが、こうした工場からもペレットがこぼれて出てきてしまうの
でしょうか?

 ペレットには成型の際の可塑剤などのほか、酸化防止剤、抗菌剤などが
含まれているものもあり、川や海の水に溶け出して環境ホルモンとなる可
能性があります。そういえば、最近、自分の胸が膨らんできたような気が
して「これって環境ホルモンのせい?」 もしかして自分(♂)の体の中
でメス化が進行しているんでは…とちょっと心配しています(えっ?筋肉
が贅肉に置き換わっただけだって! 失敬、自分が中年ど真ん中なのを忘
れてました@気持ちは青年)。

 ペレット調査と並行してゴミ採集も進められました。集めるのも大変で
すが、ゴミの分類も大変な作業で、皆さん、一所懸命やってくれました。
集まったゴミは全部で256kg。この数字も凄い! 目立ったのがお菓子も
パッケージで887もありました。大きい袋だけでなく、小さな個装袋が沢
山あり困りものでした。それとスーパー・コンビニの袋が284。ビンが
234、花火156など。靴・サンダルの26個も目立ちました。それとバーベ
キュー関連のものも多いのがここの特徴です。野島は海会などで毎年、年
に数回ずつ集中してゴミを拾っているのに、一向に減りませんねぇ。今回
は真新しいゴミが多かったような気がします。強風で飛ばされてしまった
ものがあったとしても困りものです。ゴミ箱だって、あちらこちらにある
のにね。それでも、こうした活動する姿を見た人はゴミを捨てなくなると
信じたいです。また、パタゴニアの方々は6月に開催予定のオールクリー
ン野島ビーチにも参加していただけるようで嬉しい限りです。

 ゴミの分類後、全員で記念写真を撮って解散となりました。車組みの人
は帰りも大変だったようです。今度は潮干狩り帰りの車で野島周辺の道路
は大渋滞。しかも、海会メンバーは島内ではなく金沢漁協などの遠くの駐
車場に車を置いていた人が多く、そこへ行って車をとって戻ってくるだけ
で相当の苦労を強いられたようです。その潮干狩りの人はアサリを相当
持って帰ったようです。かなり少なめに見積もっても、たぶん1家族最低
1〜2kgは採ったと思います。1000家族として1〜2トンのアサリが半日で海
から消えたことになります。この先もアサリを食べたければ、少なくとも
海にはゴミを残さないで帰って欲しいと思います。


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