2003年5月17日(土)野島定点観察報告 


「赤い結びつき」

                        


参加者:伊東会長ご夫妻、坂本事務局長+海会ジュニアの3人、木村(尚)さん、
     木村(喜)さん、工藤さん、荒井さん、諏訪部さん、相原さん、角石さん、
     高橋さんご夫妻、鈴木(賢)さん、西さん、山根さん、安齋さん、三浦さん(新人)、
     中谷さん(新人)、日大の学生さん(卒論研究のため)、反田

 5月というと、まず「五月晴れ」を連想するんですが、この日は霧雨が
時々混じる天気でした。私は海会特製の青いつなぎを着て登場(ちょっと
はずかしかったけど、似合ってるんじゃないかと自己満足してます)。途
中、夕照橋を渡ったら平潟湾が赤く染まっています。ついに赤潮の季節が
来たのでした。集合時間の9時ちょうどに研修センター裏に着いたのです
が、もうすでに多くのメンバーが集まっていました。この日も潮回りが良
く、潮干狩りの人が大勢押し寄せると予想されたので、みなさん、頑張っ
て早起きしたようです。

 早くから来ていた工藤さんがアマモの株を海岸で拾ってきてくれまし
た。その株は花枝でもう花(雌花)が咲いたものや、一部、未熟ながらも
種がありました。何人かは種を食べてみて、結構いけるようなことを言っ
ておりました。株をじっくり観察していた西先生がアマモの葉についた生
物を解説してくれました。葉にはゴマ位の大きさのフジツボがついていた
り、ケシ粒ほどのゴカイの仲間がついていたり、小さな命のシェルターに
なっているんですね。ただ、葉の先の方についたフジツボは葉が痛んでく
ると落ちてしまうとのことで、西先生が実際にフジツボの着いていた痕
(すでに落ちてしまった後の)を見付けて、見せてくれました。

 この日は、3月に植えたアマモの苗を観察する水中班、陸上の定点を観
察する陸上班に加えて、6月1日に野島の海浜清掃などを目的として催され
る「オールクリーン野島ビーチ」の準備班の3班に分かれて作業すること
になりました。私は器材をオーバーホールに出し、まだ出来上がっていな
いため、陸上班に参加するつもりでしたが、鈴木(賢)さんと一緒に坂本
さんについて準備班に加わることになり、センターの中で野島自然探見
隊、ガールスカウトの代表者の方、それにセンターの所長さんを含め打ち
合わせに参加しました。今回のオールクリーンから実行委員会形式をとり
実行委員会が主催、海会は探見隊、ガールスカウトとともに共催者に名を
連ねることになります。

 皆さん情熱的な方ばかりで「ボランティア活動は、こういう方々がいな
いと出来ないんだなぁ」と感心。私はこれまで、ただ、イベントに参加し
てきただけなのですが、イベントを立ち上げるまでには想像以上の苦労が
あるようで、見えないところでこうした努力が払われていると思うと頭が
下がります。少ない人数で大きなことをやるには、企画力、実行力、統率
力…と自分には持ち合わせていないものが揃っていないと出来ないと思い
ますが、ここに集まった方はそれが揃っている人ばかりのような感じで
す。打ち合わせ後にはオールクリーンで使用する地曳網などの点検を行い
ました。

 野島の定点観察では、FMブルー湘南の「実況中継」が11時半から15分
間ほどあり、今回は高橋夫妻が担当。坂本さんの車のカーラジオで聞こう
と思っていたら、点検しているうちに放送が終わってしまい聞き逃してし
まいました(ちょっと残念)。海はやはり赤潮で真っ赤なため、ほとんど
見えない状態だったそうです。どんな話をされたのでしょうか? このあ
とは恒例の中華の出前です。私はルースー焼きそばにしました。どのメ
ニューも量が多いのですが、これなら何とか食べ切ることができます。そ
して美味しいのが魅力です。この日は人が多く、それに伴って出前された
メニューも種類が多く、他人のはより美味しそうに見えます。次は何を頼
もうか、今から迷ってしまいます。昼食後、解散となりました。

 この日はまだ野島の前浜を見ていないことに気が付き、浜に行ってみる
ことにしました。それにしても、ものすごい赤潮です。毎年、この時期の
恒例ではあるのですが、真っ赤(というかエンジ色?)に染まった海を見
る度にビックリします。3月に植えた苗を調査した高橋さんの話では、数
cm先も見えない状態で、ほとんど手探り状態だったそうで納得できま
す。また、伊東さんがデジカメで撮ってきた写真では一面真っ赤な中に、
かすかに葉の陰がかすんで見えるだけでした。

 この濁りでは、光合成が命綱の植物にとっては、断食させられているの
と同じです。オトナのアマモは地下茎が発達して栄養を根に貯め込んであ
るので何とかしのげるのでしょうが、3月に植えたばかりのアマモの苗は
まだ貧弱で地下茎の蓄えもないので「お腹すいたよ〜」と泣いているのか
もしれません。早く赤潮が消えて、アマモの苗が日光を“お腹一杯”浴び
られるといいですね。

 そこで、ちょっと野島の赤潮について私なりに考えてみました。植物プ
ランクトンは充分な栄養と光、適度な温度があると爆発的に増えるようで
す。野島の場合、水源地の山で秋に落ちた葉が腐葉土状になって、そこに
雨が降ると、栄養が流れ出します。陸から直接、あるいは平潟湾に流れ込
む4本の川を伝わって栄養がどっと海に押し寄せてきます。自然の川でし
たら河口近くには葦原などがあって栄養を間引いてくれるのでしょうが、
この4本の川は全て護岸されていて葦原がなく、こういうフィルター効果
は期待できません。そして5月は日焼けに注意しなければならないほど光
が充分にあり、野島のような浅い海では水温の上昇も早く、この時期の野
島周辺の浅場は植物プランクトンが増える栄養・光・温度の3要素が全て
揃ってしまうのです。

 この季節の水中の日照時間を朝6時から夕方4時までの10時間として、プ
ランクトンが1時間に1回、細胞分裂すると仮定すれば、五月晴れの日は、
朝6時にたった1個だった細胞が7時に2個、8時に4個、9時に8個…正午に64
個…3時512個、4時1024個と夕方には1000個を超えてしまいます。翌日も
晴れたら、朝1000個だったものが夕方には100万個、その翌日も晴れたら
その夕方には10億個になる計算です(さらにもう1日晴れたりしたら1兆個
! きゃーぁぁぁ)。この時期は天気が周期的に変わり、雨(栄養補給)
・晴(分裂)・晴(分裂)・晴(分裂)・雨(栄養補給)…の繰り返しで
す。実際は、植物プランクトンが食物連鎖の底辺に位置するため、いろい
ろな動物に食べられて、ここまで増えることはないとは思いますが、それ
にしても文字通り爆発的な増加になるんでしょうね。野島に赤潮が発生す
るのは当然といえば当然かもしれません。

 そして野島海岸では最大のプランクトン捕食者と思われるアサリがこの
ゴールデンウィーク(GW)期間中に採りに採られて、ほとんどいなく
なったことも影響したと思います。工藤さんがこの定点の前の週に野島の
アサリを調査したらアサリが消えていた、と嘆いておりました。今年は
(今年も?)新聞にも報じられ、県内だけでなく各地から人が集まったよ
うです。GW中は朝比奈インター出口から海方面は全て渋滞、幸浦出口か
らも渋滞、国道16号も少なくとも磯子辺りから下りは渋滞していました
(全員が潮干狩りに来たのではないでしょうが…)。シーサイドラインは
GW中に私も乗りましたが金沢八景駅が珍しく人であふれていて車内は満
員、シーパラに行く人にしてはラフな格好の人が多いと思っていたら、ほ
とんどが野島公園と海の公園で降り、私の乗った車両でシーパラに行った
のは私と子どもと、もうひと家族だけでした。

 私はアサリ1個体がどの程度、水を濾過するのかデータを持ち合わせて
いませんが、アサリの気持ちになってアサリの水管ほどの細いストローで
コップの水を飲んでみたら、1時間に1リットルくらいはいけそうな感じで
した(もちろん1リットル飲んだわけではないですよ!)。干潮の前後1時
間は干上がるとして、1日2回干潮があるので、アサリは1日実働20時間
(呼吸も兼ねているので寝ている間も吸っているとして←ところでアサ
リって寝るんですかね???)。アサリ1個体が1日に濾過する海水は20
リットルとなる計算です。つまりアサリ1個が1日20リットルの濾過機能を
持った濾過機とみることができます。

 一方、潮干狩りに来た人が1日に採るアサリを、鋤簾(じょれん)を
使って違法に専門的に採る人から遊び半分の子どもまで1人平均で100個と
すると、1人が奪うアサリの濾過機能は1日2000リットルとなります。野島
島内の駐車場の収容が250台とすると、1台に一家4人として1000人。路上
駐車、島外の周辺の駐車場、シーサイドライン、バイク、自転車、徒歩で
来る人も1000人とすると合計2000人(この見積り少ないですよね)。たっ
た1日で20万個のアサリが野島から消えた勘定です。濾過機能として400万
リットル=約4000トンとなる計算です(計算を簡単にするため比重を1と
して1000リットル=1トン)。潮回りと天気が良かった5月3日〜5日の連休
3日間ではアサリ60万個=1万2000トン分もの濾過機が消えたことになりま
す。

 それでは、潮干狩りエリアにどれだけ海水があるか計算すると、潮干狩
りエリアを500m×100mとして平均水深を1mとすると、エリア全体の海
水は5万トン(1立方m=1トンとして)。実にこのうちの24%を濾過する
機能が連休のたった3日間で失われた計算です。もしも、このアサリが採
られずに残っていたら、赤潮はもう少し弱まったかもしれませんね。実
は、私の父の話では5月2日までの連休の谷間も普段の休日と同じだけの人
が潮干狩りに来ていたと言っていました(4月26日から10連休の会社も
あったようです)ので、それを含めるとGW中にはもっとアサリが採られ
た可能性もありそうです。こんな計算をしていたら、野島のアサリが
ちょっとかわいそうに思えてしまいました。そして、アサリ、赤潮プラン
クトン、アマモが意外なところで結びついている気がしました。



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