2003年6月1日(日)
  オールクリーン野島ビーチ報告

  


「ヒゲダルマ」

参加者:伊東会長ご夫妻、諏訪部副会長、坂本事務局長+海会ジュニアの
みなさん、木村(尚)さん、村石さん、辻さん、相原さん、脇田さん、
安齋さん、西さん、川嶋さん、高橋さんご夫妻、鈴木(賢)さん、
山根さん、奥津さん、反田

 前日の5月31日は横須賀・走水でのアマモの種採りがあり、5月としては
戦後2回目の上陸となる台風4号が接近するなか、約20人も参加、花枝50本
の束が141束、7,050本も採れたそうです。花枝1本に種20粒として14万粒
以上にもなります。仕事が忙しかった私は参加できず、野島での夕食の
バーベキューから参加。海会の平均年齢より20歳は若い野島自然探見隊の
皆さまとも楽しく過ごさせていただきました。夜は一旦、家に帰って朝、
再び野島に酔い覚ましを兼ねて来ました…ではなく、この日は恒例の
「オールクリーン野島ビーチ」のためにやって来たのでした。海会、探見
隊、ガールスカウトとともに野島の前浜を綺麗にするのです。

 台風4号崩れの低気圧が通過したため、天候が心配されたのですが、雨
がぱらついたのは朝だけ。その後は時間が経つにつれてどんどん良くな
り、参加者は200人を超えたようです。海会は浜の本部前の階段に長さ2m
はあるアクリル水槽を2つ用意、左側を魚用として、右側を甲殻類用とし
て、仕掛けた網に入った生き物を展示しました。開会式が始まる前から、
もう子どもたちが集まって大変でした。魚用には、メバル数尾、アナハ
ゼ、アミメハギ各1尾など入っていたのですが、人気なのは圧倒的に甲殻
類の方。いろいろなカニなどがごちゃごちゃ状態で気軽に触れるうえに、
西さんが優しく判り易く説明していることもあって人だかり状態です。魚
の方はというと、名前を聞くだけで満足してしまうようです。途中から魚
水槽にヤリイカ系の卵塊を入れたら、触りまくる子どもが何人か出てき
て、見るより触る方が子どもの興味を満たすんですね。

 まずはビーチのクリーンナップです。今回は通常のゴミ拾い班とともに
レジンペレット班も結成、子どもたちを含めて砂の中からペレットを拾っ
てもらいました。最初はどれがペレットか判らなかった子どもも、すぐに
要領をつかんだようで、真剣に集めています。そして、当然のように「レ
ジンペレットって何ですか?」「どうして、砂浜に落ちているんですか
?」という疑問が湧いてくるようで、私が簡単に説明すると分かってくれ
たようです。さらに「これがあると、どんな影響があるんですか?」とも
聞かれ「鳥や魚が食べてお腹に詰らせたり、男の人でも女の人になってし
まうような物質が少しずつ溶け出したり、よくないんだよ」と教えたら、
理解してくれました。今回は僅かな時間でしたが、全部で1万粒以上も拾
えたそうです。もちろんゴミも沢山集められ、前浜はみるからに綺麗にな
りました。

 清掃のあとは、これまた恒例の地曳網です。これまでなら、子どもたち
はわれ先にとロープのところまで走っていくのですが、今回は違いまし
た。カニ水槽の周りの子どもが動こうとしないのです。その点でアクリル
水槽は大成功だったと言えます。地曳網は新たに植えたアマモを避けて、
昨年より右側の海面を使いました。計2回曳いて、生まれたばかりとみら
れるウミタナゴや、産卵を終えて痩せ細ったニクハゼ(?)などが入りま
した。アオサがほとんど入らなかったためか、今回はヨウジウオが獲れま
せんでしたが、水面近くを遊泳するトウゴロウイワシの仲間が数尾も入り
ました。

 地曳網のあとは生き物の説明です。本来なら西さんが適任なのでしょう
が、昨年、工藤さんのピンチヒッターということでやった私が今回もする
ことになっており、とりあえず、砂地の魚から説明しました。昨年までの
経験ですと、少しでも前で見たいという子どもたちの熱気で現場は大変な
ことになるので、今年は予めロープを用意して子どもが水槽の前に群がら
ないようにして、自宅からビニール袋を持ってきて、魚やカニを入れて手
渡したのですが、今年はなぜが大人しく静かにしていました。どうも、子
どもたちが最初からカニなどを思う存分触ったことで「ガス抜き」できた
ようです。事故防止の観点からも、次回以降の水槽展示のヒントになりそ
うです。

 こうしてオールクリーン野島ビーチは今回も成功裡に終わりました。と
ても素晴らしいことです。朝の開会式で地元議員さんの挨拶の中にもあっ
たように、今回、ゴミを拾った子どもは今後、ゴミを捨てることはないと
思います。それだけでも、やった甲斐があるというものです。実際に前浜
も綺麗になりました。でも、今回参加して海の状況を見た海会のメンバー
はちょっと心を痛めてしまいました。というのは野島の海が赤潮のために
ズタズタになっていたからです。

 5月半ばから出現した赤潮は和名がアカシオウズムシ(Mesodinium
rubrum)、通称は周りに繊毛が生えていることからヒゲダルマ(ちなみに
○本さんや△藤さんのことではありません)と呼ばれるプランクトンの異
常繁殖だったそうです。赤潮というと植物プランクトンが原因になるケー
スがほとんどのようですが、このプランクトンは原生動物に分類される動
物プランクトンで、動物なのに体内に葉緑素を持っていて光合成ができる
変わり者です。東京湾には普通に見られる種類のようですが、ほかの赤潮
プランクトンとは違って日照時間が少ない方が繁殖する変わり者の2乗み
たいなヤツです。気象庁のデータによると、5月の横浜の日照時間は149.4
時間で平年比80%(20%減)、降水量は179.5mmで平年比130%(30%
増)、この日照時間の減少と雨の多さで普段は異常発生しないヒゲダルマ
の繁殖する条件が整って異常に発生、北東風が続けて吹いたことで横浜〜
横須賀方面に赤潮が吹き寄せられ濃縮されたようです。

 この日の野島の海はもうすでに赤潮はなく、朝の満潮の際にはこれまで
と同じ普通の海に見えたのですが、潮が引いてみたら、海が死んでいて愕
然としたのでした。干潟のあちこちにはマテガイの貝の半分から3分の1ほ
どが穴から出て大量に死んでいたのでした。まるでマテガイの墓標のよう
です。マテガイってこんなにいたんですね。しかもすぐ手前から。酸欠に
なって苦し紛れに穴から出てきて力尽きたのでしょう。そう思うとかわい
そうになってきます。

 そのマテガイの周りには、羽を開いた蝶が乱舞しているかのように小さ
いアサリも無数に死んでいました。小さいが故に潮干狩りの対象にはなら
ず、味噌汁や酒蒸しにされずに5月の連休をやり過ごし、せっかく生き
残ったのに…とても残念です。そして、何とアマモ群落の辺りにはミルガ
イの大きな貝殻が沢山あったとのことで、諏訪部さんが拾ってきて見せて
くれました。ミルガイまで大量に棲んでいるなんて、野島の海って本当に
生産力があったのですねぇ。死に絶えてから知ったんでは遅いんですけ
ど…。

 赤潮プランクトンが大量に吹き寄せられ、それが死んで腐ることによっ
て大量の酸素を消費、海は酸欠状態となってマテガイやアサリなどの貝が
死に、その貝の身の死骸が腐る段階でさらに酸素を消費、野島の海中は無
酸素状態となり「死の海」となったのでしょう。こんな流れが類推されま
す。平潟湾に住んでいるという人が来て「ここ数日、海が臭くなってし
まってたまりませんよ」と私に訴えていました。野島近くに住む伊東さん
ご夫妻や高橋さんご夫妻も臭かったと言っていましたし、新聞も苦情が
100件以上寄せられたと伝えており、周辺の海全体が“腐って”しまった
ようです。

 坂本さんとも話したのですが、今年はアオサが非常に少なく、海岸に打
ち上げられている数・量もたいしたことなかったのが印象的でした。日照
不足が影響したのか、赤潮による濁りで光が届かないことが影響したの
か、よく判りませんが、昨年はアオサが大量に発生して地曳網には大量の
アオサが入ったのに、今年の地曳網ではほとんどアオサが入りませんでし
た。このアオサの少ないことでアオサによる海の栄養の吸収がなかったこ
とも、赤潮の発生と関係があるのでしょうか?

 残念なことに影響を受けたのはアオサだけでなく、みんなで大事に見
守ってきたアマモも葉が枯れて色が抜けて締まったのでした。予想もして
いなかっただけに「何でぇ〜〜???」って感じで、かなりのショックで
した。一時的とはいえ植物も生きていけない環境になってしまったのか…
ヒゲダルマ恐るべしです(そういう環境にした人間が悪くて、ヒゲダルマ
自体は悪くないんでしょうけど)。葉は腐っても、せめて地下茎だけでも
生きていてくれればと、もう祈ることぐらいしかできません。

 東京湾、特に内湾側は護岸で固められ、処理の甘い排水が大量に注ぎ込
まれ、自然の海とはほど遠いのが実情です。そこで生きる生命はギリギリ
のところ、死と生の境目の環境にいるのでしょう。そのため、ちょっと環
境が「死」側に傾くと大変なことになってしまうのではないでしょうか。
私は何もできないかもしれませんが、この海がちょっとでも「生」の側に
傾いてくれるよう、何かできるところから始めたいと気持ちを新たにして
いるところです。野島干潟はちょっと黒ずんで硫化水素が発生したことを
物語っているようでしたが、すでに最悪の状態を脱した感じで、これから
が新たなスタートです。きっと素晴らしい生命力を見せてくれることで
しょう。当分、野島の海から目が離せそうにありません。

 採集した魚種は以下の通りです。
メバル、アナハゼ、トウゴロウイワシ科の1種、ボラ幼魚、ウミタナゴ幼
魚、スジハゼ、アシシロハゼ、ヒメハゼ、ニクハゼ?、ドロメかアゴハゼ
の幼魚?、ハゼ科の幼魚(種不明)、アミメハギ
無脊椎動物関係はよく判りませんが判る(覚えている)範囲で記録してお
きます。
コメツキガニ、イソガニ、ケフサイソガニ、オサガニ、マメコブシガニ、
イシガニ、大型のヤドカリの仲間、アナモグリ、ミズヒキゴカイ、ヤリイ
カ系の卵塊、ツメタガイ、カカミガイ、アサリ、ムラサキイガイ



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