2003年8月16日(土)野島定点観察報告 


「アサリの気持ち

                        

参加者:伊東会長ご夫妻、坂本事務局長、諏訪部副会長、深沢さん、木村尚さん、
     工藤さん、西さん、鈴木太郎さん、河内さん、西原さん、畑井さん、
     山中さん、村井さん、反田


 今年の夏は異常です。気象庁は梅雨明け宣言をしたのに梅雨前線は東北地
方に残り、立秋以降はそのまま秋雨前線(?)になってしまったかのよう
です。この日は、その秋雨前線が南下してきて関東地方にかかり、朝から
本格的な雨、雨、雨。しかも前線の北側のためか気温が低く、この日の横
浜は最高気温が何と50年ぶりに20℃を下回ったとのこと。涼しいというよ
り寒い感じです。ブルッ。

 こんな天気でも、もちろん全天候型の海会は営業中です。でもテンション
が低い自分がそこにいました。案の定、水着を忘れ、パンツのままウエッ
トを着込むハメになってしまいました。しかも、ロングジョンのつもりで
着てしまい、前と後ろを間違う始末。片足を突っ込んでから気が付きまし
た。ワンピースなので、チャックは背中にこなきゃいけないと。なんたる
ことじゃ! さらに、ドライスーツ用のフィンを持ってきてしまい、旧式
なのでストラップを合わせるのが大変。散々なスタートでした。

 この日は6月に全滅したアサリの稚貝調査です。前回に続いて2回目です
が、前回、私は11時過ぎに帰ってしまったため、私としては今回が初めて
となります。ダイバーは船に乗って平潟湾→海の公園を調査するボート班
と野島の前浜を調査するビーチ班の2班に分かれました。私はビーチ班で
す。フルセットでの調査と思いきや、フィンだけは要らないんだって。四
苦八苦してせっかくストラップを調節したのに。ボート班は工藤さんを
キャップに坂本さんらが担当、ビーチ班は木村さんをキャップに諏訪部さ
ん、深沢さんが担当しました。

 野島の調査は海岸線から1ヶ所につき25m沖、50m沖、75m沖の3地点を、
ボ岩側、矢板側、その中間点の3ヶ所、計9地点になります(平潟湾、海の
公園も同様に各9地点)。調査項目はベントス(底生生物)調査と稚貝調
査。ベントスの方は直径10cm位の円筒状の上部が塞がっていて、直径数
ミリの穴が1つ開いたものを使います(ちょうど、茶筒の下側をひっくり
返した感じ)。これを砂底に差し込んで、上部の穴を指で塞ぎ、引き揚げ
ると中が陰圧になって砂ごとスッポリ抜けるのです。この抜いた砂をフル
イにかけて中の生物をケースに集めます。この作業は諏訪部さんが担当し
ました。

 そして稚貝調査は30cm四方位の四角い金属製の枠を砂に埋め込み(ちょ
うど底のない一斗缶の感じで高さが20cm位のもの)、その中の砂をス
コップで掘ってフルイにかけます。これを私が担当しました。まず、ボ岩
側25m地点から作業開始です。深沢さんに陸番をしていただき、巻尺の基
点を持ってもらって25mを測ります。この日は中潮のため潮があまり引い
ておらず、25m地点では水深が腰辺りまでありました。金属枠を海底に降
ろし、それに乗って体重をかけて埋め込むのですが、器材を背負った体が
フラフラしてちょっと手間取ってしまいました。

 レギュレーターをくわえて、潜るというか、そのまま寝そべって枠の内側
の砂を掘るのですが、濁って何も見えません。仕方なく手探りで枠を確認
しながら掘りました。掘った砂を木村さんの持つフルイに乗せて、また掘
るという作業の繰り返しです。掘った砂はフルイにかけられて、頭の上か
らパラパラと降ってきて、なおさら見えなくなります。掘っても掘って
も、まだまだ砂がそこにあるという感じで、なかなか掘り進めません。

 しかし、ある程度掘るにつれて何となくコツをつかみ慣れてきました。そ
んな頃、ガツッと何かが当たって興味がそそられまました。その何かは大
型のカガミガイでした。カガミガイだけは赤潮でも死なずに生きていたん
ですね。カガミガイが出てきてからは、何か狩猟本能をくすぐられるよう
な感覚があって「次は何が出てくるんだろう」と意外にも少しは楽しめま
した。木村さんに「結構面白い」と言ったら「いよいよ作業ダイバーに片
足を突っ込んだ」と冷やかされてしまいました。ここはアサリの稚貝だけ
でなく、マテガイの多いのにも驚きでした。それとゴカイの類いは非常に
多く、野島沖は死のどん底から早くも息を吹き返しつつあるようにさえ思
えました。金属枠の下の縁まで掘ったのを手探りで確認して,最初の調査
地点の砂掘りが完了です。

 次は巻尺をそのまま伸ばし50mを測って、同じことの繰り返しです。50m
地点の方が透明度が良く、枠がかすかに見えました。巻尺は50mまでしか
測れないので、陸にいた深沢さんに巻尺の基点を離していただき、75m地
点は50m地点からさらに25mを測って決めました。ここは水深が浅く、作
業に慣れてきたこともあり、だいぶ楽になりました。途中から河内さんと
大阪から駆けつけてくれた鈴木太郎さんが加わり助かりました。

 でも、生物が多かったのは最初の地点だけ。沖に行くほど少なく、また、
中間地点と矢板側はほとんど生き物がいない感じでした。特に矢板側で出
てきたのは貝殻ばかり。海底に貝殻が層状になって溜まっている感じで
す。北東の風に押されて波が次々と押し寄せ、水中に寝そべっても波に体
を持っていかれそうになり、砂掘りが大変な作業になってきました。この
辺は大潮だと干潟になるところなので、調査は大潮の日にするのがベスト
のようです。それでも、水中を漂っていたコアマモの株を見付ける成果
(?)もありました。スコップで掘った砂をあげよとしたら目の前を株が
波にもまれながら偶然通過したのでした。工藤さんによると、横須賀ある
いは千葉側から流れてきたと考えられ、こうした株の漂着もアマモ場再生
には大事とのことです。

 野島の前浜は普段の夏なら南風が吹いて山の陰に入り波立たないのです
が、この日のように、このところ北東風ばかり吹いて波が当たるせいか、
アサリの幼生も着底できないような気がします。赤潮でアマモが全滅し波
を和らげる作用もなくなってしまいました。自分がアサリの幼生だったら
「波の当たる中間地点から矢板側には着底しないよな」って思えます。砂
粒程度しかない着底直後のアサリだったら「やっぱり静かな海底で暮らし
たいもんね」と思うでしょう。というより、静かな海でしか暮らせないよ
ね。突堤があるため波の影響が少ないボ岩側の岸近くに着底するアサリの
気持ちがよ〜くわかる気がします。今回は調査対象になっていませんが、
海に向かってボ岩の右側の方が2本の突堤にはさまれているため、波が当
たらずにアサリがどんどん着底するのではないでしょうか? 毎回とは言
いませんが、たまにはそちらも調査してみてもいいような気がします。

 昼はいつもの大盛り中華屋さんの出前です。雨が降っていたので、研修セ
ンターのご厚意により特別に食堂の一角を使わせていただきました。私は
五目固焼きソバ。ただ、通常の量だと食べきれないので、ソバを半分にし
てもらいました。昼食後、今回の結果についてボートとビーチのキャップ
から簡単な説明がありました。ボートの方は平潟湾でホトトギスガイとア
サリの稚貝が大量に入ったそうです。このホトトギスガイはパッチ状に分
布しているそうで、調査用の枠がたまたまパッチのところにはまってし
まったようです。そのホトトギスガイを核にしてアサリの幼生が着底、す
でに稚貝になったようです。そのアサリの稚貝は150個ほど、頼もしい限
りです。工藤さんによると、幼生は湾の外から来たのではなく、平潟湾内
の親アサリが産んだと推察されるとのことでした。平潟湾でまずアサリが
増えると、湾には幼生がたくさん生まれ、その一部が水路や運河を伝わっ
て野島の前浜にも来て、いずれは前浜のアサリも増えるのでは…と期待し
ているところです。


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