2003年9月13日(土)野島定点観察報告 


「コアサリ・コアマモ・コカガミガイ」

参加者:伊東会長ご夫妻、諏訪部副会長、坂本事務局長、深沢さん、
    工藤さん、木村(尚)さん、河内さん、安齋さん、高橋さんご夫妻、
    西さん、西原さん、大井さん、反田

                      

冷夏だった8月の穴埋めをするように9月は一転して猛暑! この日も朝か
ら暑く、自転車で野島に着く頃には汗だく状態でした。出掛ける前、
ちょっと荷物をまとめるのに手間取って、集合時間の9時に5分ほど遅れた
ら、すでにブリーフィングが始まっていました。今回も5〜6月の赤潮でほ
ぼ絶滅したアサリの稚貝とベントス調査です。中秋の名月の9月11日から2
日後の大潮だったので、潮が相当引くと思いスキンダイビングの予定を勝
手に急きょ変更、暑かったこともあり海パンとTシャツ、それに水中マス
クだけで調査に参加することにしました@気分はリゾート。

わが野島調査チームは西さんをリーダーに、諏訪部さんが潜水を担当しま
した。前浜に行くと潮は考えていたほど引いていませんで、水深は腰近く
までありましたが、調査には問題ありません。暑くて死にそうでしたので
却って助かりました。まずはボ岩側のラインから25m、50m、75m地点の
調査です。今回も金属枠内の砂を掘って行なう稚貝調査を担当しました。
水は比較的透明度が良く、枠が見えるので掘るのが楽です。砂をスコップ
で掘ってフルイにかけるとフルイの目(5mm×5mm?)より若干大きい
アサリの稚貝がかなり採れます。何も採れないとダレてしまうのですが、
ある程度出てくれると狩猟本能が満たされることもあり、作業が進みます
(これって私だけ?)。

ボ岩側を終えて中間地点に行くと、西さんがフルイを持って興奮気味に何
かを追っています。「魚、魚」と言うので、そばまで行ってみるとマツダ
イの幼魚がいました。マツダイとしては黄色が強く美しい方です。この魚
は幼魚のうちは枯葉に擬態していて、水面下で横になってじっとしていま
す。魚とは気付かずに近付いてくる小魚を食べたりしています。天敵にも
枯葉にしか見えないので一石二鳥です。ただ、追われると逃げ足が速く
(足でなく鰭?)、すぐには捕まらなかったのですが、もうひとつのフル
イで挟み撃ちにしてゲット! 早速、ビンに入れました(私は見ていただ
けですが)。工藤さんの話では、野島にはマツダイがたまに出現するそう
ですが、今年はこの個体が初記録とのことでした。餌を豊富にとっている
ようで、お腹が膨らんでおり、非常に元気ですが、悲しいかな、マツダイ
はいわゆる死滅回遊魚で秋が深まって水温が下がると死んでしまう運命に
ある魚です。

こんなハプニングのあと、サンプリングを再開。中央の距岸25m地点でも
殻長1cm以下の稚貝がたくさん見られ、嬉しくなりました。それと、カ
ガミガイの稚貝も初めて見ることができました。形は小さい時からカガミ
ガイなんですね(当り前か)。ただ、稚貝以上に稚貝の貝殻も数多くあり
ました。せっかく着底しても、大きくなるまでには幾多の至難を乗り越え
なければならないのですね。自然の掟とはいえ、かわいそうな気がしま
す。しかも、貝殻には穴が開いて、明らかにツメタガイの被害にあった形
跡があるものが少なくありません。赤潮事件が発生する前はアサリやバカ
ガイが豊富にいたことから、ツメタガイは大きい貝ばかりを選択して食べ
ることが出来たため、こんな小さな貝は目に入らなかったのでしょうが、
赤潮で野島の海から大きい貝が消えてしまったので、ツメタガイとしては
小さくて肉が少なくても何でも食べざるを得ないのでしょう。一旦リセッ
トされた海で生き残るため、人の眼には触れない砂の中で壮絶な戦いが繰
り広げられていたのです。

真夏の天気ということは、風は南西風。前浜は南側の野島を背に受けるた
め、風が当たらず、濁りが少ないので、水中マスクをして水中を見ると海
底の様子が良く分ります。海底には、ところどころに環形動物の造った管
が見えます。ゴカイの大先生である西さんに教えていただいたのですが、
この管の持ち主はスゴカイイソメというそうです。巣に棲むゴカイなので
始めは「スゴカイ」と名が付いたようなのですが、実はイソメの仲間だっ
たということで、素人にとってはどっちなんだかハッキリしないような名
前になったそうです。その巣の回りには砂利や貝殻が付いているのです
が、巣を核としてアサリの稚貝が糸で付着しています。一度、アサリが付
着していると分ると、どの程度の巣に稚貝が付いているのか調べたくなり
ました。どの巣にも最低1つの稚貝が付いていて、アサリの着底の基地み
たいになっていました。巣は1平米に2〜3個かそれ以上ありましたので、
野島全体では相当な数になります。イソメとアサリには意外な関係があっ
たんですね。

中央ラインの調査を終え、矢板側に移動する時に、何とコアマモの群落が
見付かりました。密度は高くなかったのですが、2〜3m四方くらいあり、
明らかに赤潮での絶滅を免れた株です。それではと、矢板側ラインの調査
を終えてから、諏訪部さん、河内さんと3人で矢板側を探検することにし
ました。赤潮の前まで矢板付近にはアマモ・コアマモの群落があったから
です。すると、岸から100m前後の、ちょうど手前のノリヒビと奥のノリ
ヒビの間の地点に1m×3mくらいのコアマモの濃密な株を見付けました。
これは凄い!コアマモが森林状に生えていたんです。顔を水から出して諏
訪部さんに向かって叫ぶと、諏訪部さんも同じような濃密株をほぼ同時に
見付けたようで興奮していました。何とこの地点だけ濃密な株が数m離れ
て2株も残っていたのです。こちらも明らかに赤潮の被害を免れて残った
ものです。「コアマモだけかもしれないけど、絶滅は免れたんだ」と安堵
感に包まれました。このほかにもコアマモの小さい株を2つ(30cm四方
と10cm×20cm)見付けることができました。アマモは夏場に元気がな
くなるのに対し、コアマモは比較的高水温でも地下茎を伸ばして生長する
ので、赤潮のあと、アサリ採りの人が減ったこともあって、どんどん栄養
株を伸ばしていったのではないでしょうか。大きいアマモが絶滅して小さ
いコアマモが生き残ったのは、恐竜が絶滅してもトカゲが絶滅しなかった
感じですかね。

研修センターに帰る際にも、河内さんとそこら中の砂地を掘ってアサリの
稚貝の状態を見ながら帰りました。そして堤防近くの汀線際にアサリの稚
貝が大量に存在しているのを発見しました。砂を両手ですくうと小アサリ
が数個は指に絡んできます。それが1ヵ所だけでなく、ランダムにその付
近のどこの砂をすくってもそうなのです。ただ、そばでは女性が採ったア
サリを選別していたので、選別して残されたアサリが溜まったのでは、と
いうのが河内さんの説でした。それにしては、どこも同じように分布して
います。あとで工藤さんに聞いたら、自然に増えたものだろうとのこと
で、野島とアサリの回復力をさらに見せ付けられた感じで、とても嬉しく
思えました。しかし、選別した女性以外にも、潮干狩りの人がすでに何人
も押し寄せており、アサリがせっかく着底して成長を始めても、産卵して
次代を残せるほど大きくなる前にほとんど採られてしまう可能性が高そう
です。今の稚貝が次世代を残すには人間という怖〜い生き物から逃げ延び
なくてはなりません。

堤防を越えてカニ干潟にも降りて砂を掘ってみました。ここには大き目の
シオフキが多く、これに混じって、やはり大き目で食べごろサイズのアサ
リが若干いました。カニ干潟のシオフキとアサリは絶滅を免れたのではな
いでしょうか? たった堤防ひとつの違いですが、堤防があったお陰で赤
潮が押し寄せなかったのかもしれません。それと、赤潮で絶滅しなかった
貝にカガミガイがあります。カガミガイはアサリ、シオフキ、バカガイな
どより砂地の深いところにいるのですが、野島の前浜では砂に半分だけ入
りかけている個体(通常あり得ない)や、海底で口を開いて死んで、周り
の砂が硫化水素で黒ずんでいるケースがかなり見受けられました。潮干狩
りに来た人がアサリが採れないので、深く掘っているうちにカガミガイが
採れたのだけど「こんなの要らないや」という感じでカガミガイを海底に
放置、カガミガイは砂に潜ろうと頑張っているのだけど、貝殻の大きさに
較べ足の力が弱いためか、砂に潜れずに半分だけ入りかけたままになった
り、力尽きて海底で死んでしまったり、そんなシナリオが推察できます。
一応、砂に入ろうと頑張っている個体は砂に埋めてきましたが、元気を取
り戻せるだけの体力が残っているかどうか・・・。

寄り道をしたため研修センター裏に戻るのが遅れてしまいました。平潟湾
・海の公園チームも帰ってきました。平潟湾も海の公園もアサリが戻って
きている地点は稚貝が爆発的に(ちょい大袈裟)増えているようで、サン
プルを入れるビンがアサリ稚貝で一杯です。来月からはもっと大きいビン
でないと稚貝が入りきらない可能性があります。僅か3ヵ月ほどで稚貝が
「湧く」ということは平潟湾〜野島〜海の公園の金沢湾一帯はアサリの生
産力は非常に高いということなのでしょう。赤潮という突発的要因がなけ
れば、浅い海底はアサリや他の貝でビッシリと埋まるはずだったのかもし
れません。その原因となった赤潮は今年の異常気象が引き金となったよう
ですので、来年は「春は春らしく、夏は夏らしく・・・」という感じで、
季節がちゃんと巡ることを期待します。大盛り中華屋さんの出前で昼食を
楽しく戴いて、アマモ冊子の打合わせをしたあと解散しました。

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