2005年8月20日(土) オールクリーン野島ビーチ報告  


「 生きている証 」

 オールクリーン野島ビーチが年間4回開催となって、今回は夏バージョン。海浜清掃、前回植えたアマモの観察、地曳網が予定されています。ただ、毎月第3 土曜の定点観察日と重なるため、陸上班がオールクリーンを担当、潜水班がアマモ調査も同時進行するという強行(?)スケジュールとなりました。スタッフは 8時半集合だったにもかかわらず、私は家を出る前からバタバタしていたら大遅刻。研修センター裏に着いたのは9時過ぎになってしまいました。


 夏といえばセミ。海会ジュニアが虫取り網を持ってセミをたくさん捕まえてきたところでした。虫が苦手なはずの娘も捕まえたいと言い出し、泉ちゃ んが網を貸してくれて、私と一緒にセミを捕ることになりました。自称セミ捕り名人としては血が騒ぎます。「鳴いているのを捕まえるのはシロート」などと自 分に言い聞かせつつ桜の幹を捜すと、いましたアブラゼミ。鳴いていないので雌と思いきや、網に入るとギギギギッーーーと大騒ぎ。網から出すと、何と体の両 側に真っ白い幼虫が2匹ついているではありませんか。前回、セミの外部寄生虫を見たのは小学生の時、40年近くたっての再会でした。


 センター裏まで持って帰ると、子どもたちだけではなく大人も興味を示し、一番反応したのが工藤さん。1匹は糸を出してツツッーと降りたので、蛾 の幼虫だと直感しました。奇遇なことに、その日の読売夕刊に科学記事として、この虫が大きく扱われていたのです。名前はセミヤドリガ(なんだ、そのまんま じゃん)。普通はヒグラシの雌に寄生するそうです。木に産み付けられた卵がセミの羽音で孵り、セミに飛びついてセミが生きている間にグングン成長して、セ ミから降りて蛹(繭)になってまた産卵するという生活史を送るとのこと。そんなこととはツユ知らず、さっさとセミを逃がしてしまいました(寄生していると ころの写真撮っとけば…と悔やまれます。次はまた40年後かぁ)。


 また前置きが長くなってしまいました。ここからが本番(?)。前回のオールクリーンの際、地曳網で獲れた生き物の解説をした時に、時間を延ばし てほしいと言われていたので「今回も延ばしますか」と坂本さんに聞いたら「その場の様子をみて決める」とのことでした。臨機応変ってことですね。実は時間 をもたせるために、ちょっと秘策を練っていたのですが…。結局、それは次回ということになりました。


 海岸に行っていよいよスタートです。主催者や来賓の挨拶のあと、まずは海浜清掃から。例によってアオサがたくさん打ち上がっており、打ち上がっ たアオサの回収とゴミ拾いです。アオサを回収することは富栄養化した東京湾の栄養塩を間引く(といっても微量ですけど)ことと、放って置くと腐ってものす ごい異臭を放つのでアオサの回収は重要です。手前のアオサは真夏の日差しを受けて乾燥し始めており軽いのですが、波打ち際のアオサはまだ水分をたっぷり含 んでいて網袋一杯まで詰め込むと重すぎて運べなくなるくらいです。半分ほど入れたら、海岸に設けられた回収所に持って行くのがコツです。ゴミについては季 節柄、花火関係のものが目立ち、特にロケット花火の柄が目に付きました。でも個数として一番多かったのはタバコの吸い殻だそうです。愛煙家の皆さん、注意 しましょうね。


 海浜清掃のあとは、水分補給のための休憩を入れてからアマモの観察です。実はこのアマモ、前回5月のオールクリーンで子どもたちが手植えしたも のです。鋤簾に荒らされてないか心配です。この日の干潮は11時半。満月の大潮なので干潮時の潮高は僅か5cm! どひゃーって感じで引いています(分か るかな、この表現)。そして、私が参加者をアマモ場まで連れていくことになりました。行く前に一応、参加者に「前回植えなかった人いますか?」と聞いた ら、ぽつぽつと数人の手が挙がっただけだったのでとりあえず安心。「ついてきて下さ〜い」と声を出しながら歩いたまでは良かったけれど、心の中では「どこ だっけ?」とちょっと不安。実は前回、アマモの苗を用意する係りをやったので、実際に植えるところを見ていなかったため場所が不確か。それでも波打ち際ま で行くうちに小群落がいくつか見えてきたので助かりました。鋤簾攻撃にも何とか耐えてきたようでした。不安はおくびにも出さず「この辺りですよね、覚えて ますよねー」って感じ。


 植えた子どもたちから「あんなに小さかったアマモがこんなに大きくなってる〜〜」と歓声が上がります。長い葉はすでに1m近くまで伸びていま す。「アマモの葉っぱが自分の体のどの辺まで伸びているか確かめてみてねー」と言うと、子どもたちが次々葉を伸ばして「お腹までー!」とか「胸まである よ!」、中には「オマタまで」っていうのもありました。「葉っぱの幅も見てね。あんなに細かった葉っぱがこんなに広くなってるよね」。自らの手で植えたア マモが僅か3ヶ月で大きくなっているというのは子どもたちにとってやっぱり感動なんですね。でも、その後が続きません。大人はいろいろと観察を続けていま したが、子どもはすぐに水遊びや他の生き物に興味が移ってしまいました。中でもカガミガイ、タマシキゴカイの卵嚢、ツメタガイと砂茶碗が人気。どれも魚屋 や水族館では見られない、野島の海に来なければ見られないものばかりなので、まあしょうがないか。


 午後からは地曳網の予定でしたが、夏休みど真ん中ということもあって、曳き手となる子どもたちが少なかっただけでなく、スタッフ不足ということ もあって地曳網は中止、代わりに干潟観察会になりました。工藤さん、西さん、そして私が講師を務めることになりました(あぁ、どうしよう)。参加者を3つ のグループに分けたのですが、私は何と大人ばかり10人程が相手(いやー困った)。生き物を見せて説明するだけじゃ納得しないよね、大人は。とりあえず 「潮が上げてきているので、まずできる限り沖に行って、それから岸に戻りましょう」と言って、できるだけ沖に行きました。その間に構成を考えて、まずはア サリの生息条件を見てもらうことにしました。


 潮はまだかなり引いていて干潟の先のちょっと深くなっているところに入って海底を掘ってもらいアサリを探してもらいました。ここは波が当たるの でアサリが少ないんですね。次に干潟内の潮溜まりでアサリを探してもらうと、手では掘れないほどアサリがびっしりと詰まっていて自分でも驚きです。「こん なに一杯いる!」と喜んでくれました。アサリは静かな海に多いということをまずは実体験。ついでに入水管と出水管の穴のセットを探せば、そこには二枚貝が いる証拠という点も説明しておきました。ここでも人気はカガミガイ、タマシキゴカイの卵嚢、ツメタガイの卵嚢である砂茶碗。伊東さんが見つけたメリベウミ ウシも注目が集まりました。


 干潟があると海は生きているんだってことを説明したかったので、砂の臭いを嗅いでもらうことにしました。「どうです、ほとんど臭わないですよ ね。砂の色も黒くないですね」「あ、ほんとだ」。干潟には生物がたくさん棲んでいて、その生物の穴が一杯開いているので、酸素が供給されて夏の暑い日でも 臭わないというような説明をしました。あとで突堤の脇を掘って出てきた真っ黒になって臭う泥と比較してもらいました(黒い泥があって良かった、ほっ)。 「どんなですか、臭いですよね」と聞くと「わ、臭っ。ドブ川の臭い」とか「卵の腐ったの」という返事。海が死ぬと硫化水素が発生して、ドブと同じ臭いに なってしまうんですよ。干潟があってそこに棲む生き物が豊富にいれば「海は生きている」けど(海が生きているっていう表現が好きなもんで、イメージわかり ますよね)、直立岸壁だとこうはならず底はヘドロになってしまうというような説明を加えました。


 潮がどんどん上げてきて、浅瀬に移動したのですが水位はくるぶしを超えてきました。足元をみるとシマイサキの仲間のヤカタイサキの幼魚が群れて 泳いでいます。この魚は幼魚のうちは干潟や河口などを生活の場としますが、成長すると沖に出て行くようです。生活史の一部だけ干潟を利用する生物がいて、 干潟がないとこうした生物も生きていけなくなるということを、またも直立岸壁の話を交えて説明しました。それと、突堤ではカニがあちらこちらで交尾してい ました。カニはお腹同士をくっつけて交尾します(いわゆる雄の褌と雌の腰巻)。見た目は違うけどエビの仲間なので正常位となるのは当然といえば当然なので すが、参加された方は初めて見たようでとても新鮮だったようです。


 観察会を終えて、グループ間での知識の共有のため、それぞれ講師が簡単に解説することになりました。まずは工藤さんがマテガイやニホンスナモグ リなどを細かく解説。さすがです。次に私(アドリブができない自分が情けない)。「皆さん、海の砂の臭いを嗅いだことありますか」と言ったまでは良かった んですが、その後はしどろもどろ・・・。浅い知識では話す内容も薄っぺらになって当然なんですが、ちょっと自己嫌悪。次いで西さんがゴカイやカニ、葦原の 解説をしてくれました。やはり専門家は違います。そして閉会式をして記念撮影をして終了となりました。採ってきた貝などを海に逃がして戻ってくると、高校 生か大学生くらいの2人が砂の臭いについてもっと説明して欲しいとのこと。聞いてくれていた人がいたんだなぁと思いながら、東京湾の富栄養化の話などを交 えて語ってみました。身近な海の環境に興味を持ってくれる若者がもっと増えてくれれば・・・と思います。
                  

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